寛永通寳分類用語解説  

 本項では、寛永通寳の分類に際し使用される用語のうち、わかりづらいと思われるもの、
あるいは本図会中に独特な定義で使用されているもの等を解説する。
なお、解説にあたっては、以下の凡例に従う。
[凡例]
一、用語の列挙にあたっては、50音順とする。
一、各用語の訓みを【 】中に示す。
一、各用語に対する反意語がある場合、それを(⇔ )として示す。
一、解説文内に注の必要が生じた場合、それを( )内に補う。
一、各用語に同義語がある場合、解説はより一般的な語の項で行う。
一、各用語の解説を同義語の項にて行う場合、あるいは、関連する用語がある場合、
   参照すべき用語を、→を付して示す。

分類用語解説

仰ぐ 【あおぐ】 文字が右に傾いている状態、また、字画の一部が左上がりになっている状態をいう。(⇔俯す)
浅字 【あさじ】 →浅彫り
浅彫り 【あさぼり】 文字や輪、郭などの凸部と、谷との高低差が小さいこと。浅字。(⇔深彫り)
厚肉 【あつにく】 銭貨の厚みが比較的厚手のもの。(⇔薄肉)→銭肉
後打 【あとうち】 極印などを、鋳造された母銭それぞれに打つこと。(⇔鋳込)
鋳写し 【いうつし】 母型(銭貨)を用いて鋳型(砂型)を作製し、その鋳型を用いて溶融した金属を成形し、母型の形状を写 し取ること。
鋳込 【いこみ】 極印などを、あらかじめ彫母銭または原母銭に打つこと。(⇔後打)
鋳浚い 【いざらい】 原母銭や母銭の谷の鋳肌を平滑に加工すること。
鋳溜り 【いだまり】 偶発的な鋳造上の不良でできた、面や背に見られる凸部。
鋳縮み 【いちぢみ】 溶融した金属が凝固する際に縮む性質によって、銭貨の鋳写し後、寸法が全体的に縮むことをいう。
鋳詰まり 【いづまり】 字画と字画との隙間、字画と輪や郭との隙間が塞がっている状態。母銭の型抜け不良によって生じる。
鋳走り 【いばしり】 →湯走り
鋳放し 【いばなし】 鋳造後、銭貨の表面を研磨していないもの。表面全体に鋳肌が見られる。→鋳肌
鋳肌 【いはだ】 鋳型の砂などの影響で、鋳造物の表面に生じる微小な凹凸のこと。多くの銭貨、特に銅銭は鋳造後表面 を研磨するので、谷にのみこれが残る。
鋳不足 【いぶそく】 砂型に溶解した金属を流し込む際、金属が砂型内部を完全に満たすことができないときに生ずる欠陥。字画の一部が欠落したり、凹んだりする。湯回り不良とも。
陰起 【いんき】 文字の一部が凹んでいること。
薄肉 【うすにく】 銭貨の厚みが比較的薄手のもの。(⇔厚肉)
【かく】 銭貨の中心の穴(穿)をとりまく四角形の凸部。
額輪 【がくりん】 鋳出された文字の高さが輪の高さより低いこと。また、そうした特徴を持つもの。
濶縁 【かつえん】 通常は輪の幅が広いものを指すが、本図会では、以下の定義による。すなわち、母銭に覆輪して、母銭を鋳造するための母銭を鋳造し、その母銭から通 用銭が鋳造された、と考えられる場合、その通用銭を濶縁として分類する。濶縁としたものは、標準銭にくらべて直径は同じかやや大きく、内径、銭文径は小さくなる。また、磨輪銭と同様に濶縁を輪側仕上げの段階で過度に仕上げられたものも存在すると思われるが、それらは次鋳との区別 が困難なため、紛らわしいものは次鋳に入れる。→次鋳
刮去 【かっきょ】 文字を削り取ること。刮去銭には、削り取った痕跡が認められるものもある。なお、背刮去銭と無背銭との違いは、厳密にいえば、有背銭の彫母銭や原母銭の背文を削ったものを母銭として造られたものか(背刮去)、有背銭のそれとは異なる彫母銭や原母銭を用いて造られたものか(無背)という点にあるが、実際には判別 が困難な場合も多い。→無背
嵌郭 【かんかく】 郭幅を広くするため、郭の内側に金属の四角い枠をはめ込むこと。
嵌入 【かんにゅう】 文字を原母銭の谷の部分へ新たにはめ込むこと。
狭穿 【きょうせん】 穿内が比較的小さい銭貨を指していう。(⇔広穿)
降る 【くだる】 文字の位置あるいは字画の一部が、同種の銭貨にくらべ下に位置している状態。
刔輪 【けつりん】 母銭修整の一手法。輪の内側が一様に削られていること。また、そうした特徴が見られるもの。面 が刔輪されているものは、削り取られた輪の分だけ、文字と輪との間隔が広くなる。
原母銭 【げんぼせん】 母銭を造るための母銭。なお、「原母銭」の語は、彫母銭から最初に鋳写 された銅母銭や、覆輪や背文の刮去等の加工を施した、母銭鋳造用の銅母銭のみを指すといった、かなり限定した範囲で使用されている場合が多いが、本書ではこれを広義的に捉え、彫母銭や錫母銭を除く、母銭を鋳造するための母銭と考えられるものを指している。→母銭
広郭 【こうかく】 郭幅の広い状態。また、そうした特徴を持つもの。(⇔細郭)
洽水 【ごうすい】 「永」字のフ肩と接画が、すべて柱の一点に集中する場合をいう。あるいは、「永」のフ肩と接画とが、郭の下辺に対してほぼ平行線上に位 置している場合(例:厚肉高寛洽水)を指すこともある。
広穿 【こうせん】 比較的穿の広いもの。(⇔狭穿)
刻印 【こくいん】 →極印
極印 【ごくいん】 銭貨の表面に打たれた文字、記号、紋様の印。また、その打刻器具。刻印。
細縁 【さいえん】 通常は輪の幅が狭いものを指すが、本書では以下の定義による。すなわち、母銭を鋳造するための母銭(原母銭)を、通 用銭を鋳造するための母銭の銭径同様にまで輪側を研磨し、その母銭で鋳造されたと考えられる通 用銭を細縁として分類する。細縁銭は、直径は基本体のそれと同様だが、内径・銭文はともに大きい。
細郭 【さいかく】 郭幅の狭い状態。また、そうした特徴を持つもの。(⇔広郭)
削字 【さくじ】 母銭修整の際、字画の一部が削られるもの。
削輪 【さくりん】 四文銭の原母銭修整の一手法。背の波を残し、輪の内側のみ削り取ることをいう。削り取られた分だけ、基本体より波が長い。特に文政期四文銭に見られる。
色調 【しきちょう】 文字・輪・郭など凸部における平均的な色合い。黒系・黄系・赤茶系・白系がある。
次鋳 【じちゅう】 通用銭を鋳造する行程で母銭が鋳造され、その母銭から鋳造されたと考えられる通 用銭。なお、次鋳銭は、基本体にくらべ平均して直径が小さく、内径、銭文径がともに小さくなり、銭文も縮む。→濶縁
私鋳銭 【しちゅうせん】 →密鋳銭
小様 【しょうよう】 ある系統において、標準的な直径分布にくらべて極端に直径の小さい一群が認められる場合、その群をいう。(⇔大様)
退く 【しりぞく】 標準位置より右にずれている状態。(⇔進む)
錫母銭 【すずぼせん】 母銭を鋳造するための母銭で、錫製のもの。錫は溶融時の粘性が低いので、より精巧に鋳出すことができ、比較的低温で溶融するので経済的な利点もある。錫母の利用は文銭鋳造以降と考えられるが、いつ頃から使用され始めたものかは定かではない。→母銭
進む 【すすむ】 標準位置より左にずれている状態。(⇔退く)
ス貝寳 【すばいほう】 「寳」の貝の前足が下梁右端に接し、下梁と両足とが「ス」のかたちに見えるもの。古寛永通 寳のすべてはこのス貝寳であるが、新寛永通寳の一部にも見られる。(⇔ハ貝寳)
穿 【せん】 銭貨の中心にある四角形の穴。
穿内 【せんない】 郭の側面。面郭と背郭にはさまれた部分。
銭肉 【せんにく】 銭の厚み。
銭文径 【せんぶんけい】 「寛」と「永」など異なる文字において、例えば「寛」の冠後肩と「永」のフ肩といったように、任意に決めた2点間の長さ。同一銭種において、鋳縮みによる変化か否かを判断する目的で計測する。
大様 【たいよう】 ある系統において、標準的な直径分布にくらべて極端に直径の大きい一群が認められる場合、その群をいう。(⇔小様)
高い 【たかい】 特に寛足と通頭に用いられる。寛足の場合、他の銭種とくらべて、見の下梁と郭との間隔が広い状態を指し、通 頭の場合、縦に長い状態を指す。(⇔低い)
縦ヤスリ 【たてやすり】 輪側部分や穿内に、銭貨の平面に対して垂直方向にヤスリ掛けの痕跡(筋)が認められる場合をいう。(⇔横鑢)
【たに】 銭貨の輪、郭、銭文などの凸部に対して、凹んだ部分。
種銭 【たねせん】 →母銭
  【ちゃく】 しんにょう(しんにゅう)。
通用銭 【つうようせん】 一般に通用させる目的で発行された銭。(⇔母銭)
〜手 【〜て・〜で】 分類名称の語尾につく接尾語。その分類名称のものと同一ではない が、類似している、という意。「〜様」よりは、系統的類似が明らかな場合に用いることが多い。→〜様
銅母銭 【どうぼせん】 通用銭を製作するための母銭。→母銭
内径 【ないけい】 銭貨の輪の内側の大きさ。本書では、計測位置を上下の中心線、「寛」側の内輪の角から「通 」側の内輪の角までと定めている。
内輪 【ないりん】 輪の内周部分のこと。
【にく】 →銭肉
抜け勾配 【ぬけこうばい】 銭貨を鋳型から抜けやすくするため、輪側や穿内に付ける傾き。
背文 【はいぶん】 文銭の「文」の字のように、銭貨の背(裏)に鋳出された文字のこと。(⇔面 文)
ハ貝寳 【はばいほう】 「寳」の貝の前足が下梁から離れ、両足が「ハ」のかたちに見えるもの。新寛永通 寳の多くはハ貝寳であるが、古寛永通寳には見られない。(⇔ス貝寳)
低い 【ひくい】 特に寛足と通頭に用いられる。寛足の場合、他の銭種とくらべて、見の下梁と郭との間隔が狭い場合を指し、通 頭の場合、縦に短い場合を指す。(⇔高い)
深字 【ふかじ】 →深彫り
深彫り 【ふかぼり】 文字や輪、郭などの凸部と、谷との高低差が大きいこと。→深字(⇔浅彫り)
覆輪 【ふくりん】 輪側に金属を巻くこと。母銭を原母銭として簡単に流用する目的で、大型化するために用いられた方法。
俯す 【ふす】 文字が左に傾いている状態、また、字画の一部が右上がりになっている状態をいう。(⇔仰ぐ)
抱冠 【ほうかん】 「寛」の冠後垂れが内側へ屈曲していること。また、そうした特徴を持つもの。
ほう鋳銭 【ほうちゅうせん】 →密鋳銭
母銭 【ぼせん】 通用銭を造るための鋳型。種銭ともいう。通用銭は、彫母銭、原母銭、錫母銭(不使用の場合もある)という段階を経て、鋳写 しされた母銭をさらに鋳写して造られる。その過程は、現存する彫母銭や原母銭、また錫母銭の内径変化などから判断して、多くの場合、4回あるいは3回の鋳写 しで通用銭に至ると想定できる。(⇔通用銭)
彫母銭 【ほりぼせん】 金属板を直接彫って成形された銭貨。発行貨の原形をなすもの。→母銭
磨輪 【まりん】 銭の周囲を削って小さくすること。本図会では、同一銭種において直径の個体差が著しい場合、比較的小さいものを磨輪として参考までに掲載している。
密鋳銭 【みっちゅうせん】 寛永通寳の中には、母銭や通用銭の製作上(直径・内径、面・背・輪側・穿内の仕上げ方)、他の類にくらべ著しく差異の認められるものや、明らかに他の銭座の通 用銭から鋳写しによって造られたと思われる、材質や製作の劣るものが存在する。これらは、藩が幕許のないまま鋳造したもの、あるいは個人が藩や幕府に対し未許可で鋳造したものである、との推論に基づき、密鋳銭と称される。ほう鋳銭、僭鋳銭、私鋳銭とも。
無背 【むはい】 銭の裏(背)に文字のないもの。→刮去
面文 【めんぶん】 「寛永通寳」のように、銭貨の面(表)に鋳出された文字のこと。(⇔背文)
ヤスリ目 【やすりめ】 一般的には、ヤスリ本体に切り込まれた線の目の粗さをいうが、収集界では、ヤスリによって付けられた筋状の痕跡のことを指す。その筋状の痕跡が太い場合を「ヤスリ目が荒い」、逆に細い場合を「ヤスリ目が細かい」という。
湯走り 【ゆばしり】 溶融した金属を砂型に流し込む際の圧力が高く、規定外の部分に流れ込み、しばしば棒状に突起した痕跡を残すことがあり、これをいう。鋳走りとも。
湯回り不良 【ゆまわりふりょう】 →鋳不足
〜様 【〜よう】 分類名称の語尾につく接尾語。確定銭種の名称で、ある銭貨の形容を伝えようとする時に用いる。同一銭種ではないが類似しているという点では「〜様」も「〜手」も何ら変わらないが、「〜手」よりも漠然とした感じを表わすことが多い。例えば、直径が二文銭のように大きいという意の「折二様」、製作が文久永寳に似ているという意の「文久様」など。→〜手
横ヤスリ 【よこやすり】 輪側部分に、銭貨の平面に対して平行方向にヤスリ掛けの痕跡(筋)が認められる場合をいう。(⇔縦ヤスリ)

年号―西暦対照表(寛文〜明治)

寛文 1661-1673 延宝 1673-1681 天和 1681-1684 貞享 1684-1688
元禄 1688-1704 宝永 1704-1711 正徳 1711-1716 享保 1716-1736
元文 1736-1741 寛保 1741-1744 延享 1744-1748 寛延 1748-1751
宝暦 1751-1764 明和 1764-1772 安永 1772-1781 天明 1781-1789
寛政 1789-1801 享和 1801-1804 文化 1804-1818 文政 1818-1830
天保 1830-1844 弘化 1844-1848 嘉永 1848-1854 安政 1854-1860
万延 1860-1861 文久 1861-1864 元治 1864-1865 慶応 1865-1868
明治 1868-1912