令和8年(2026)9月29日(火)  旧暦8月19日 友引
今朝の撮影 Data
Hasselblad X2DII  4/28V 2,5/55V
iPhone 17 Pro Max
現像 Adobe Photoshop Lightroom CC
撮影枚数 XX枚
- 旅終えて帰る浅草朝の四時 北の思い出胸に連れゆく -

 楽しかった「THE ROYAL EXPRESS」の旅も、とうとう終わってしまいました。今朝のあほまろは、札幌で朝を迎えております。
 旅が終わった翌朝というものは、なんとも不思議なものですね。昨日まで一緒だった仲間たちもクルーのみなさんもいなくなり、ホテルの窓から見える札幌の街だけが、何事もなかったようにいつもの朝を迎えております。
 あれほど賑やかだった数日間が、まるで夢だったようですよ。それでも札幌は、あほまろにとって北海道の玄関口であり、故郷へ戻ってきたような安心感を覚える街でもあります。
 ですから札幌にいると、なんとなく「家に帰ってきた」ような気分になってしまうのですが、よく考えてみれば、あほまろの家は浅草なのであります。
 しかし、まだ帰っていないのでありますよ。
 これから東京まで、まだまだ長い鉄道の旅が残っているのです。
 しかも普通の人なら飛行機でひとっ飛びするところを、乗り鉄あほまろは、今日も列車を乗り継いで帰ります。
 旅の疲れを列車で癒やすというのですから、これは一般の方には理解しにくい習性でしょうね。

 さて、昨日は「THE ROYAL EXPRESS 北海道クルーズ」の最終日でした。富良野を出発し、バスの車窓から美瑛の丘を眺めながら旭川へ向かいました。
 なだらかな丘が幾重にも重なり、畑の色が大地に模様を描き、その向こうには北海道らしい大きな空が広がっている丘の上で、大迫淳英氏の演奏が行われました。
 何度眺めても、美瑛の風景には不思議な魅力がありますよね。人間が耕した畑なのに、自然そのものの風景に見えるのですからね。

 そして旭川駅から、いよいよ最後となる青い「THE ROYAL EXPRESS」に乗り込み、札幌へ向かいました。「最後」という言葉は、どうしてこんなにも寂しいのでしょうね。
 いつもの旅なら、
「また次がありますよ」
 そう思えば笑って別れることができます。

 ところが今回は違います。
 あほまろが大好きだった、あの美しい青い車体が北海道の大地を走る姿も、これが最後なのです。
 七年間続いてきた北海道での運行。そして、あほまろにとっては五回目となった北海道の「THE ROYAL EXPRESS」の旅でした。

 そして、車内でいただくお食事も、これが最後となりました。
 最後の昼食を担当されたのは、札幌で農場とレストラン「AGRISCAPE(アグリスケープ)」を営み、自ら野菜を育て、家畜を飼いながら、北海道の大地そのものを料理に仕立てている方でした。
 食事が始まる前、クルーの方が「今日はこちらの食材を使います」と、色とりどりの野菜を大きなトレーいっぱいに載せて、あほまろたちのところへ見せに来てくれましたよ。
 それにしても、列車の中で料理をいただく前に、その料理になる素材そのものを見せてもらえるというのは楽しいものです。
 北海道を巡った旅の最後に、北海道の大地を食べて締めくくる――。
 なんとも「THE ROYAL EXPRESS」らしい演出ではありませんか。
 最後の車内昼食だけに、楽しみであると同時に、これを食べ終えてしまえば、本当にロイヤルエクスプレスでのお食事も終わってしまう――そんな寂しさも、少しずつ込み上げてきたのでした。

「北の土 育てし野菜皿に乗り 旅の終わりを 噛みしめにけり」(阿呆人也)

 食事をしながら思い出だけはどんどん後ろへ流れていくようでした。
「もう一度この列車で北海道を巡りたい」
「もう少し、この列車に乗っていたい」
 きっと乗客のみなさんも、同じような気持ちだったことでしょう。
  ところが、岩見沢に着くころになると、
 どうやらその願いが、北海道のお天道さまに届いてしまったようなのであります。ただし、少々届き方を間違えてしまいましたけどね。
 昨日の北海道は、発達した低気圧などの影響で各地が大荒れとなり、札幌周辺でも激しい雨に見舞われました。道路の冠水や河川の増水なども起こり、鉄道のダイヤにも大きな乱れが生じてしまったのです。
 ロイヤルエクスプレスが岩見沢付近までやって来た頃から、列車の動きも次第に鈍くなってまいりました。

 岩見沢駅では40分ほどの停車とのことで、雨に濡れないホーム内を歩くしかありませんでしたよ。

 北海道を走る最後のロイヤルエクスプレスをいっぱい撮ってまいりました。

 列車はようやく動き出しましたが、止まったり、動いたり。動いたかと思えば、またゆっくり。
 普段なら颯爽と線路を駆け抜ける列車が、この日ばかりは、まるで北海道との別れを惜しんでいるようでした。
 なんとか江別駅に到着しましたが、札幌はすぐそこ。
「もう少し乗っていたい」確かにそう願いましたよ。

。

 でも、二時間以上とはお願いしておりませんよ。神さまというものは、願い事の細かな条件までは聞いてくれないようですね。
 おかげで列車は、更にのろのろ、のろのろ。クルーのみなさんにとっては、とんでもない最終日になってしまいました。
 札幌到着後の予定は次々と変更しなくてはならず、ホテルへの移動や、その後の手配など、きっと裏では大変な騒ぎだったことでしょう。
 ところが、そんなクルーのみなさんの苦労をよそに、乗客たちは妙に嬉しそうなのであります。
「まだ乗っていられる」
 これほど迷惑な乗客もいませんね。
 時計を見れば予定よりどんどん遅れているのに、誰も怒りません。
 むしろ、
「いいじゃないですか、最後なんだから」
 そんな空気さえ漂っていたのでした。
 あほまろも、もちろん同じです。
 急いで札幌へ着く必要などありません。
 今日が最後なのですから、一分でも一秒でも長く、この青い列車に揺られていたかったのですよ。 そんな、ゆっくりと進む列車の窓から外を眺めていると、面白いお客さんが現れました。

 赤とんぼです。どこからともなく一匹の赤とんぼが飛んできて、窓の外を並ぶように飛び始めたのです。
列車があまりにも遅いので、
「なんだ、こいつは」
とでも思ったのでしょうか。
赤とんぼは、あっさりロイヤルエクスプレスを追い抜いてしまいました。天下の豪華列車が、赤とんぼに抜かれてしまったのであります。
 ところがしばらくすると、また窓の近くへ戻ってきました。
 抜いたり、抜かれたり。
 まるで、
「おまえ、本当に列車なのか」と確かめに来ているようでしたよ。
 そんな赤とんぼを眺めながら、あほまろはなんだか可笑しくなってしまいましたよ。
 北海道を走る最後の日。
 美しい青い列車。
 激しい雨による遅れ。
 そして、その横を飛んでいく一匹の赤とんぼ。
 考えてみれば、これほど出来すぎた幕切れもありませんよね。

 約二時間遅れで札幌駅に到着しました。
 列車の旅というものは、時刻表通りに走るから便利なのですが、後になって思い出すのは、案外、時刻表通りにいかなかった日のことなのですよね。
 順調だった旅は「楽しかった」で終わります。
 ところが、列車が遅れたり、雨に降られたり、予定が狂ったりすると、それがいつの間にか物語になるのです。
 人生も、案外そんなものかもしれませんね。
 予定通りに進んだ日々よりも、思い通りにならなかった出来事のほうが、後になって鮮明に思い出されるものですからね。

「名残惜し 願えば列車なお遅れ 赤とんぼまで先に札幌」(阿呆人也)

 赤とんぼが札幌まで一緒について来たかどうかは、知りませんけどね。
 いつもの旅なら、終着駅では涙のお別れとなるところです。
 クルーのみなさんと握手を交わし、
「またお会いしましょう」
 と声を掛け合い、名残惜しくて、列車から離れても何度も振り返ってしまうものですよね。
 まして今回は、北海道を走るロイヤルエクスプレスとして最後の旅です。きっと札幌駅では、涙、涙のお別れになるのだろうと、あほまろも覚悟しておりました。

 ところが――。列車が札幌駅に到着したのは、予定より二時間以上も遅れてからのことでした。こうなると、涙に暮れている場合ではありません。
 クルーのみなさんは、その後の予定変更や手配などで大忙し。乗客のみなさんも、長い長い一日の末に、
「着いた、着いた」
 と、なぜか妙に明るい表情です。
 結局、しんみり別れを惜しむ暇もなく、あほまろが想像していた「涙、涙のフィナーレ」にはなりませんでしたよ。
 でも、今になって思えば、それで良かったのかもしれません。最後だからと湿っぽく別れるよりも、
「いやあ、最後の最後までやってくれましたね」
 と笑いながら別れるほうが、ロイヤルエクスプレスらしい幕切れではありませんか。
 そして、そんな慌ただしい札幌駅で、心に残る光景がありました。
 毎回、ロイヤルエクスプレスの絵を手に、列車を迎えに来てくれる男の子が、この日も待っていてくれたのです。
 二時間以上も遅れての到着だったというのに、最後のロイヤルエクスプレスを迎えようと待っていてくれたのでした。
 今回は北海道での最後の運行ということで、その男の子にはスタッフのみなさんから記念品が贈られました。長い間、列車を迎え続けてくれた小さな鉄道ファンへの、ロイヤルエクスプレスからの「ありがとう」だったのでしょう。
 その姿を眺めながら、あほまろは思いました。
 いまはホームから列車を見つめているこの男の子も、やがて大人になります。
 そして、いつの日か北海道を走る新しい豪華列車に乗り込み、今度は車窓からホームを眺める日が来るのかもしれませんね。
 列車の旅には終着駅があります。けれど、旅への憧れには終着駅などありません。
 ロイヤルエクスプレスが北海道に残した思い出も、こうして次の世代へと受け継がれていくのでしょう。
 涙のお別れにはならなかったけれど、最後に残ったのは笑顔でした。
 それもまた、長い旅の終わりにふさわしい、ロイヤルエクスプレスらしいお別れだったのでありますよ。

 札幌到着後はホテルへ移動し、車庫に戻る列車を見送りながら、旅の最後のお別れ会となりました。
 旅の途中で撮られた映像をみんなで振り返りながら、数日前の出来事なのに、もう懐かしく感じてしまうから不思議です。

 出発の日の笑顔。車窓から眺めた北海道の大地。各地で手を振ってくださった方々。食事の時間。クルーのみなさんとの会話。
 そして、一緒に旅をした仲間たち。
 列車というものは、人を運ぶだけではありません。時間を運び、思い出を運び、そして人と人との縁まで運んでくれる乗り物なのです。今回の旅でも、以前の旅で知り合った方々と再会し、また新しい出会いもありました。
 列車を降りれば、それぞれが自分の日常へ戻っていきます。
 けれども、一緒に同じ列車に揺られ、同じ風景を眺めた時間だけは、消えることはありません。

 そして最後のお別れ会を終え、今回の「THE ROYAL EXPRESS 北海道クルーズ」は、大迫氏の演奏にて、静かに幕を閉じたのでありました。

 スタッフのみなさん、ありがとうございました。やはり別れは辛いですね。

 あほまろの今回の旅は、ツアーの前後を含めて六日間。振り返れば、毎日毎日、列車に揺られておりました。 普通なら、
「もう列車はしばらくいい」となるのでしょう。
 ところが乗り鉄という生き物は、そう簡単にはできておりません。
 今朝もこれから、午前十時代の特急列車に乗ります。
 そして新幹線へ乗り継ぎ、東京に到着するのは夕方の予定です。
 つまり、旅が終わった翌日も列車なのであります。もはや移動しているのか、列車に乗るために移動しているのか、本人にもよく分かりません。

 でも、それでいいのですよ。
 北海道の大地を走った青い「THE ROYAL EXPRESS」の姿は、もう見ることができないかもしれません。けれど、あの列車で出会った人たち、車窓から眺めた風景、沿線で手を振ってくださった方々、そして昨日、ロイヤルエクスプレスを追い抜いていった赤とんぼまで、すべてがあほまろの中に残りました。

 旅というものは、終わるからこそ旅なのですね。
 いつまでも続いていたら、それは旅ではなく生活になってしまいます。
 そして帰る場所があるからこそ、旅の終わりには少しだけ寂しさがあり、その寂しさが次の旅への楽しみに変わっていくのでしょう。

「青き汽車 北の大地に別れを告げて 思い出だけは終着知らず」(阿呆人也)

 列車には終着駅があります。旅にも終わりがあります。でも、思い出には終着駅がありません。

 夕食は、息子と二人でいつもの寿司屋さんでした。

 そして、あほまろは今日、北海道から浅草へ帰ります。六日間も留守にしてしまったので、浅草寺のみなさんはどうしているでしょうね。
 ビクトリー君やレインボーちゃん、ハート君にピースちゃん。貫太郎君とお浅ちゃんも、ちゃんと元気にしているでしょうか。
 もしかすると、
「あの爺さん、とうとう来なくなったな」
 なんて思われているかもしれません。
 いや、彼らのことですから、
「どうせまた来るだろう」
 くらいに思っているのでしょうね。

 明日の夜明け前には、またいつものようにカメラを持って浅草寺へ向かいま
 北海道を走るロイヤルエクスプレスの旅は終わりました。しかし、あほまろの旅は、まだ終わりません。
 明日から再び、午前四時の雷門です。
 遠くまで出かけて、いろいろな風景を見て帰ってくると、いつもの浅草の朝が、少しだけ違って見えるものです。
 きっと明日の朝も、観音さまは何事もなかったようにそこにいらっしゃることでしょう。
 そして、いつもの仲間たちも。
 旅から帰るということは、元の場所へ戻ることではありません。
 旅で得た思い出を抱えて、いつもの場所をもう一度、新しい目で眺めることなのかもしれませんね。
 そんなことを思いながら、あほまろはこれから、最後の長い鉄道の旅を楽しみながら浅草へ帰ります。

「旅終えて 帰る浅草朝の四時 北の思い出胸に連れゆく」(阿呆人也)

 明日からまた、「浅草は、朝が深い」の日々が始まりますよ。

Memo
Hasselblad X2DII+XCD 4/28V
Hasselblad X2DII+XCD 2,5/55V
Leica M11P SAFARI