今朝、まだ夜の名残を引きずっている薄暗い浅草寺境内を歩いていると、どこからともなく女性の話し声が聞こえてきました。
こんな早朝から、いったい誰と話しているのでしょう。声のする方を見ると、アジア系の若い女性が、ひとりで何やら楽しそうに喋っているのです。
最初は「あらら、ずいぶん大きな独り言だな」と思ったのですが、よく見ると、女性の前には小さな三脚が立てられ、その先にはスマートフォンが取り付けられていました。なるほど、独り言ではありません。
スマホの向こう側にいる、世界中の誰かに向かって喋っていたのでした。
さらに本堂の横へ回ってみると、そこにも同じようにスマートフォンに向かって話している女性がおりました。
まだお坊さんの読経さえ始まっていない早朝の浅草寺で、すでに世界へ向けた「放送」が始まっていたのでございます。時代は変わったものですね。
昔なら、映像を世界へ届けようと思えば、大きなテレビカメラを担ぎ、照明さん、音声さん、ディレクターさん、場合によってはプロデューサーまでぞろぞろ引き連れて歩かなければなりませんでした。
ところが今では、スマートフォン一台と小さな三脚があれば、それで立派な放送局になってしまいます。撮影も編集も字幕入れも、場合によっては翻訳までスマートフォの中で済んでしまうのですから、昔のテレビ局の人が見たら腰を抜かすでしょうね。
もっとも、機材が小さくなったぶん、喋る人の声だけは昔より大きくなったような気もいたしますけどね。
本堂脇で撮影していた女性の横を通り過ぎようとすると、突然、流暢な日本語で声を掛けられました。
「おはようございます。浅草寺の歴史について、少し教えていただけませんか」
日本語があまりに自然なので、日本で暮らしている方なのかと思って尋ねると、カナダから来た方でした。
日本の大学を卒業したそうで、現在の職業は、なんと「YouTuber」なのだそうです。
「職業、YouTuber。」
ひと昔前なら、入国書類の職業欄にそんなことを書いたら、「それは趣味ですか」と聞き返されたかもしれません。しかし今では、動画を企画し、撮影し、編集し、世界へ配信し、広告などから収益を得る。立派な仕事として成り立っているのです。
彼女は現在、特定の国に腰を据えるのではなく、さまざまな国を旅しながら動画を制作しているとのことでした。
有名な観光地だけを紹介するのではありません。大手のマスコミがあまり取り上げない町の姿や、そこで暮らす普通の人たちの生活、市場の様子、食事、路地裏、朝の風景などを、自分の目で見て、自分の言葉で伝えているのだそうです。
それを聞いて、あほまろはちょっと嬉しくなりましたよ。考えてみれば、あほまろが長年続けている浅草の早朝記録も、似たようなものかもしれません。
こちらは世界を旅する代わりに、毎朝ほとんど同じ場所をぐるぐる歩いているだけですけどね。
片や世界一周、片や浅草寺一周。
移動距離にはずいぶん差がありますが、「大きなニュースにはならない日常を残す」というところだけは、どこか似ているような気がしたのでございます。
そこで気になったのが、YouTuberという職業の「懐具合」であります。
世界を旅しながら動画を配信して、それだけで生活できるなんて、ずいぶん結構な商売ではありませんか。
あほまろが尋ねると、彼女は笑いながら、
「そんなに簡単ではありませんよ」
と教えてくれました。
旅費、宿泊費、交通費、通信費、機材費などを払いながら生活を続けるためには、彼女の場合、ひと月に150万回以上の再生が必要なのだそうです。
現在はカナダを中心に世界各地に視聴者がおり、登録者数は約10万人とのことでした。
「10万人!」
浅草寺本堂の前に10万人集まったら、観音さまも驚いて扉を閉めてしまうかもしれませんね。もっとも、登録者が10万人いても、全員が毎回見てくれるわけではありません。
動画が見られなければ収入にはつながらない。旅を続ければ費用もかかる。昨日まで人気だった動画が、今日は誰にも見てもらえないことだってあるでしょう。会社員なら月末になれば給料日がやって来ますが、YouTuberには「再生回数」という気まぐれな上司がいるようなものです。
しかも、その上司は機嫌が悪くなる理由を教えてくれません。これはこれで、なかなか大変な商売なのでございます。
話はさらに、海外旅行とビザの問題になりました。
彼女によれば、最近は国によって、収益を伴う動画撮影や配信活動が単なる観光なのか、それとも仕事なのか、その境目が問題になることがあるそうです。
たとえばアメリカでは、観光客が旅の思い出として写真や動画を撮ることと、仕事として撮影や制作活動を行うことは、必ずしも同じ扱いではありません。
ESTAや短期滞在で認められる活動にも範囲があり、撮影の目的、活動内容、報酬との関係などによっては、別の在留資格やビザが問題になる場合もあるとのことでした。
つまり、
「スマホで撮っているだけだから観光です」
とは、必ずしも言い切れない時代になってきたということでしょう。彼女自身も、そのあたりを慎重に考えて旅先を選んでいるようでした。
日本へは短期滞在で来ており、入国時にも職業をYouTuberとして説明したそうですが、特に問題を指摘されなかったとのことでした。
ただし、これも「YouTuberなら日本では何をしても大丈夫」という意味ではありません。旅行中の個人的な撮影と、日本国内で報酬を得て行う仕事では話が違いますし、これから世界各国で動画配信者が増えていけば、入国管理の考え方も次第に細かくなっていくのでしょう。
実際、インドネシアでは近年、観光目的の滞在資格で商業的な写真・映像制作を行った外国人に対し、当局が厳しく対処する事例も出ています。
昔の旅人が税関で尋ねられたのは、
「酒やタバコは持っていますか」
くらいだったのに、これからは、
「そのスマホで撮った動画、収益化しますか」
なんて聞かれる時代になるのかもしれませんね。
便利になったような、不便になったような、なんとも妙な世の中でございます。
そういえばYouTubeを眺めていると、ニューヨークやロサンゼルスなど、アメリカの街を歩きながらライブ配信している日本人の動画もたくさん見かけます。
あの方々は、それぞれの活動内容に合った資格で滞在しているのでしょうか。もちろん、永住権を持っている人もいれば、就労可能な資格を持っている人もいるでしょうから、動画を見ただけでは分かりません。
ただ、「みんなやっているから大丈夫」という理屈ほど、入国審で通用しないものもありませんね。
SNSの世界では再生回数が多いほど偉いようですが、入国管理の世界では再生回数が多いほど目立ってしまう可能性だってあります。
隠れて仕事をしているつもりでも、自分から世界中へ証拠映像を公開しているのですから、考えてみればYouTuberという商売ほど「隠し事」に向かない職業もありません。
「私は仕事なんかしていません」
と言いながら、
「チャンネル登録と高評価をお願いします!」
では、少々説得力に欠けますからね。
インドネシアでも、観光目的の滞在資格を利用して商業的な写真・映像制作などを行った外国人が摘発され、国外退去処分となる事例が報じられておりました。
今後、動画配信によって収益を得る人がさらに増えれば、世界各国の入国管理当局も、「旅行」と「仕事」の境界について、これまで以上に厳密に判断するようになっていくのかもしれません。
昔の旅人は、旅から帰ってから写真を現像し、アルバムを開いて、
「ここへ行ったんだよ」
と家族に見せたものでした。
今の旅人は、まだ旅の途中なのに世界へ向かって、
「いま、ここにいます!」
と発信します。
しかも、それを見た人の数によって収入まで発生する。旅が思い出ではなく、商品にもなる時代なのでございます。
それでも、あほまろは今朝出会った彼女の話を聞きながら、動画配信という新しい仕事を少し羨ましく思いましたよ。
世界を歩き、知らない町へ入り、普通に暮らす人々と言葉を交わし、その姿を記録して次の土地へ向かう。
これは現代版の旅日記なのかもしれませんね。
江戸時代なら旅籠に泊まり、矢立から筆を取り出して旅日記を書いた。明治になれば写真機を担いだ。昭和には8ミリカメラになり、平成にはビデオカメラになった。
そして令和の旅人は、スマートフォンを小さな三脚に載せ、「Hello everyone!」と世界へ向かって喋り始めるのでございます。
道具は変わっても、「見たものを誰かに伝えたい」という人間の気持ちは、案外昔から変わっていないのでしょう。
そして、あほまろもまた毎朝カメラを持って浅草寺を歩き、誰もニュースにしない小さな出来事を拾い集めております。
鳩が来た。スズメが鳴いた。花が咲いた。雨が降った・・・。見知らぬ旅人と言葉を交わした・・・。
世間から見れば、どれも大事件ではありません。しかし、何十年も積み重ねれば、それはその町が生きていた証しになるのです。
世界を巡るYouTuberと、浅草を巡るあほまろ。
今朝、まだ薄暗い本堂脇で出会った二人は、ずいぶん違うようでいて、実は同じ「記録屋」だったのかもしれませんね。
もっとも、決定的に違うことがひとつあります。
彼女は月150万回再生されなければ旅を続けられないそうですが、あほまろの日記は150万回どころか、150回でも続けますよ。
再生回数より、明日の朝が来ることの方が大切ですからね。
「三脚に スマホを据えて国めぐり 観光なのか商売なのか」(阿呆人也)
世界を巡るYouTuberのみなさん、くれぐれも訪問先の国のビザや就労規則には気をつけてくださいね。「知らなかった」は、動画のネタにはなっても、入国管理当局への言い訳にはならないでしょうから。
毎朝、あほまろは散歩の途中で足を踏み入れる観音裏広場。観光客の喧騒から少し離れ、季節の草花や鳥たちと静かに向き合いながら、今日という一日の物語を見つけるための、かけがえのない場所なのでございます。
今朝の日の出は午前4時58分。
ハナカイドウの実。
おはようございます。今朝は開門4分前にやって来た、野崎さん、山本さん、高橋さん。
おはよう益美さん。
子育地蔵さま、わが家の子どもたちと猫の安全をお守りください。
日本のナイチンゲールと称される瓜生岩子像。
夏の境内をご覧下さい。
深い緑に包まれたイロハモミジ。
定点観察を続けているソメイヨシノの木。あほまろは、風格ある幹や力強く伸びる枝ぶりはもちろんのこと、とりわけ葉の移ろいに心を惹かれております。
昨年から落ちることなく枝に残り続けている三枚の葉があります。新しく茂った深緑の葉にそっと覆われ、その存在に気づく人はほとんどおりませんが、あほまろは毎朝、その葉の姿を探してしまうのでございます。
令和の大改修を終え、広々とした境内西広場。
お店の取り壊し作業が終わった伝法院通りでは、これから石垣や塀の補修工事が始まるのです。
あほまろは今日も秘密基地でダラダラ過ごしますよ。
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おはようヒロちゃん。
今朝の朝の朝食は、野久しぶりのトウモロコシとクロワッサン。デザートはメロン。
妻のコレクションは、江里子さんとマドンナさん。
昨日の東京スカイツリー。
しゅと犬くん。
あほまろお帰りなさい。
夕べの夜の夕食の晩ご飯は、みんなが揃って、妻の誕生を祝いました。
おめでとうございます。
MemoiPhone 17 ProMAX