今朝も、まだ夜の名残が残る薄暗い境内に、ビクトリー君とレインボーちゃんが元気に飛んで来ましたよ。
大香炉の向こうから羽音を響かせてやって来る姿は、まるで「あほまろ、おはよう!」と挨拶をしながら出勤してくるようですね。
レインボーちゃんはひと足先に到着して、いつもの場所で知らん顔。ところがビクトリー君は、じっとしているような鳩ではありません。
あっちへ歩き、こっちへ歩き、ときどきカメラを覗き込むような顔までしてくれましたよ。
「今朝もちゃんと撮ってるか?」
そんなことでも言いたそうな、この表情です。
レインボーちゃんは、首元の羽には緑や紫の光沢が浮かび、なかなかのお洒落さんですね。本人もそれを知っているのか、横顔まで妙に凛々しいのであります。
しばらくレインボーちゃんと並んでおりましたが、
突然、ビクトリー君が羽を大きく広げました。
一直線にこちらへ向かって飛んで来ます。
羽をいっぱいに広げ、まるで飛行機が着陸態勢に入ったようにあほまろの手のひらへ、無事着陸。
それにしても、餌を持っているわけでもないのに、こうして毎朝あほまろの姿を見つけて飛んで来て、手の上に乗ってくれるのですから、すっかり朝友のひとりになってしまいましたね。
言葉は交わせなくても、毎朝同じ場所で顔を合わせているうちに、「おはよう」くらいは、お互いちゃんと通じるようになったのでしょう。
ビクトリー君は、手の上でひと休みしたかと思えば、今度は勢いよく飛び立って手水舎の方へ。ぐるりと境内をひと回りして、またあほまろのところへ戻って来ます。まだ参拝客の姿もほとんどない本堂前を、まるで自分の庭のように自由自在に飛び回っておりましたよ。
あほまろが手を差し出すと、大きく翼を広げて一直線。
「はいはい、今行きますよ〜」
そんな顔をしながら、あほまろの手のひらを目がけて降りて来るのです。
さんざんあほまろと遊んだ後は、再びレインボーちゃんが待っている棚の上へ。
「ずいぶん遊んできたわね」
とでも言いたそうなレインボーちゃんの横で、ビクトリー君は何事もなかったような顔をしております。
ビクトリー君が何度もあほまろの手の上に飛んで来る様子を、少し離れたところからじっと眺めていたクロちゃんが飛び出して来ましたよ。
最初は頭上をぐるりと旋回。それから本堂前を低空飛行しながら、
狙いを定めた先は、
やっぱり、あほまろの手のひらでした。
おお、来た来た。
正面から見ると、これがなかなかの迫力です。
両翼をいっぱいに広げ、足を前に出して着陸態勢。まるで航空母艦へ降りてくる艦載機みたいですね。
ビクトリー君が何度もやっていたので、「ボクだって出来るぞ」とでも思ったのでしょうかね。
クロちゃんもしばらく手の上で翼をばたつかせながら、
「どうだ、ボクだって上手だろ」と得意顔。
ビクトリー君から始まって、とうとうクロちゃんまで――。あほまろの手のひらは、いつの間にやら境内の鳩たちの人気着陸地点になってしまったようですね。
ハトたちは、あほまろの苦労などお構いなしに、境内を自由気ままに飛び回っております。
飛んで来たかと思えば、突然方向を変え、手のひらに着地したと思った次の瞬間には、もう別の場所へ飛んで行ってしまうのですよ。
そんな一瞬を逃すまいと、写真を撮るあほまろは必死です。
「来るぞ、来るぞ」とカメラを構え、こちらへ向かって飛び出した瞬間から、夢中になってシャッターを切り続けております。
翼をいっぱいに広げた瞬間、足を前に出して着地する瞬間、そして手のひらにふわりと乗る瞬間――。ほんの一瞬の出来事なので、ピントが合ったかどうかを確認している暇などありません。
ハトたちにしてみれば、ただ朝の境内で遊んでいるだけなのでしょうが、こちらは毎朝が「決定的瞬間」との真剣勝負なのですよ。
そこへ今度は、ハート君とピースちゃんもやって来ましたよ。
クロちゃんはもうすっかり親離れして、今ではひとりで自由に飛び回り、あほまろの手の上にも平気で飛び乗ってくるようになりました。
ところが、そんなクロちゃんの様子を、ハート君とピースちゃんは少し離れたところからじっと見守っているのです。
「あの子、あのあほまろにずいぶん懐いちゃったけど、大丈夫かしら……」
そんな親心なのでしょうかね。
でも、クロちゃんは、そんな心配などどこ吹く風。あほまろのそばへやって来てはじゃれつき、自由気ままに遊んでおります。
親離れしたとはいっても、昨日まで自分たちの後を追いかけていた子どもです。ひとりで飛べるようになったからといって、親の心配まで一緒に飛んで行ってしまうわけではないのでしょうね。
人間だって同じですよね。子どもが大きくなり、自分の世界を持つようになれば、親は口を出さずに見守るしかありません。しかし、口は出さなくても目は出している。いや、鳩ですから、目どころか首まで伸ばして見張っておりますよ。
やがて三羽が同じ棚に並びました。
こうして見ると、クロちゃんはまだ小さい子どもなのですね。
毎朝見ている鳩たちですが、こうした姿を眺めていると、人間も鳩も、親子の情というものは案外変わらないのかもしれないなと、ちょっぴり温かな気持ちになるあほまろなのでした。
ハート君とピースちゃんに見守られていたクロちゃんですが、どうやらまだ遊び足りなかったようですよ。
「ボク、もうちょっと遊んでもいいでしょ」そんな顔をして、
再び棚から勢いよく飛び出しました。
この頃になると夜もすっかり明け、静かだった境内にも参拝客の姿が少しずつ増えてきました。外国人観光客も、目の前を自由自在に飛び回るクロちゃんにカメラを向けておりましたよ。
ところがクロちゃん、そんなことはお構いなし。
大きく翼を広げて境内をひと回りすると、またまたあほまろ目がけて一直線です。
「まだ遊ぼうよ!」
こちらへ向かって飛んでくる姿をファインダー越しに追いながら、あほまろも必死にシャッターを切りました。
クロちゃんも、何度も何度もあほまろの手を発着場にして遊んでくれましたよ。
親離れしたクロちゃんですが、まだまだ甘えたい年頃なのでしょうか。それとも、あほまろの手のひらを新しい遊び場だと思っているのでしょうかね。
ただし右手はカメラで塞がっておりますので、遊び相手と撮影係の一人二役。これがけっこう忙しいのであります。
今朝もクロちゃんのおかげで、ずいぶん楽しい朝になりましたよ。
遊び終えると、クロちゃんは両親が待つ場所に戻って来ましたよ。
やはり、どんなに元気に飛び回っていても、最後はお父さんとお母さんのそばがいちばん安心するのでしょうね。
クロちゃんがあほまろの手の上を行ったり来たりして遊んでいる様子を、植え込みの中からじっと眺めていたスズメちゃんもおりましたよ。
「鳩ばっかり遊んでもらって、ずるいなぁ……」
なんて思っていたのでしょうか。こちらを見つめる表情が、なんとなく羨ましそうにも見えてしまいますね。
そのうちスズメちゃんまで、あほまろの手のひらへ飛んで来てくれたら楽しいのですけどね――。