今朝も、日の出前からビクトリー君が元気いっぱいに飛んで来ましたよ。
おはよう、ビクトリー君。
大きく羽を広げて、一直線にあほまろのところへやって来ます。毎朝のこととはいえ、こうして自分を目がけて飛んで来てくれる姿を見ると、やっぱり嬉しいものですね。
そして今朝は、いきなり手のひらで握手です。
「おはようさん。今日もよろしくね」
もっとも、握手といってもビクトリー君の場合は、両足であほまろの手をギュッとつかむだけですけどね。それでも、これがビクトリー君流の朝のご挨拶なのであります
今朝は冷たい北風が吹いて、半袖のあほまろは震えるほど寒かったのですが、ビクトリー君は平気な顔。
ビクトリー君、寒くないのかい。あほまろなんか、もう震えているんだよ。
そんな心配などどこ吹く風とばかりに、羽を広げて元気いっぱい。ハトには立派な羽毛の防寒着がありますからね。あほまろも羽毛を生やせたら便利なのですが、残念ながら生えてくるのは余計なところばかりですよ。
朝のご挨拶を終えると、ビクトリー君はいつもの棚の上へ飛んで行きました。
すると、そこにはレインボーちゃんも待っていましたよ。
おはよう、レインボーちゃん。今朝も元気そうだね。
二羽そろって棚の上から、あほまろの様子をじっと見ていましたよ。
さて、さて、今日は何をして遊びましょうか。
すると二羽は、相談でもしていたかのように辺りをうろうろ。
やっぱり、おみくじしか無いでしょ。
そうしましょ。
ビクトリー君が、おみくじのところへ案内してくれましたよ。
さてさて、ビクトリー君とレインボーちゃん、今朝はどんな運勢を選んでくれるのでしょうね。
人間が引けばただのおみくじですが、ハトに選んでもらえば、これがなかなかありがたいですね。
おみくじの筒をガラガラガラ。
何が出たのかな?
じゃ〜ん!
今朝ビクトリー君が選んでくれたのは、第十八番「吉」でしたよ。
「大吉」ではありませんでしたが、「吉」なら十分ではありませんか。毎朝ハトにおみくじを選んでもらって、大吉ばかり要求するなんて、それこそ観音さまから「欲張るでない」と叱られてしまいますからね。
何やら難しい漢字がずらりと並んでおりました。あほまろには、さっぱり分かりません。そこで意味をたどってみると、なかなか良いことが書かれておりましたよ。
最初の「離暗出明時」は、暗いところを離れて、明るいところへ出る時が来たという意味でしょう。これまで思うように進まなかったことにも、少しずつ光が差してくるということのようです。
続く「麻衣變緑衣」は、粗末な麻の衣が立派な衣へと変わるというたとえで、境遇が良い方向へ変わっていくことを表しているのでしょう。
そして「舊憂終是退」は、これまで抱えていた心配事や悩みも、やがて遠ざかっていく。
最後の「遇祿應交輝」は、幸運や恵みに巡り合い、それらが互いに輝きを増していく――。
つまり今朝の「吉」は、ひと言でいえば、
「暗い時は終わり、これから少しずつ明るい方へ向かいますよ」
という、なかなかありがたいお告げでしたよ。
ほら、良いことが書いてあったでしょ。
引いて良かったでしょと、ビクトリー君とレインボーちゃんがおみくじの周りをうろうろ。
そのうちビクトリー君は、おみくじの上に堂々と乗ってしまいましたよ。
暗いところを離れて、明るいところへ出るってことは、日の出時間ってことかな。
レインボーちゃんも飛び乗って、暗い時は終わり、これから明るくなるってこと。
大吉でなくても、それだけで十分に「吉」の朝ではありませんか。おみくじには「暗きを離れて明るきに出づる時」とあります。
日の出前の暗い境内でビクトリー君たちと遊び、やがて空が少しずつ明るくなっていく――。なんだか今朝の浅草そのものを詠んでいるようにも思えてきましたよ。
やがて空が少しずつ明るくなると、今度はハート君がひょこひょことやって来ましたよ。
おはよう、ハート君。今朝はちょっと遅かったね。
その後ろには、ちゃんとピースちゃんも一緒です。どうやら今朝も仲良く二羽そろってのご出勤ですね。
おはよう、ピースちゃん。冷たい風なのに、ご苦労さま。
先ほどまでビクトリー君とレインボーちゃんが遊んでいた棚の上も、これで一気に賑やかになりました。
ハート君は胸をふくらませ、ちょっと偉そうにこちらへ近づいてきます。その後ろをピースちゃんが控えめについて歩く姿は、なんだか夫婦で朝のご挨拶に来たようにも見えますね。
冷たい北風に震えていたあほまろでしたが、こうしてみんなの顔がそろってしまうと、もう寒いから帰るなんて言っていられません。
ハトたちにとっては、今朝もいつもと変わらぬ浅草の朝なのでした。
そして、あほまろにとっては、いつもの顔が今日も元気にやって来て遊んでくれたことが、何よりの「吉」なのでありましたよ。
帰り道には、いよいよいつものカラスたちの出番ですよ。
まず姿を見せてくれたのは貫太郎君。
おはよう、貫太郎君。今朝も待っていてくれたのかい。
高いところからこちらの様子をうかがっていたかと思えば、地面へ降りて、ひょこひょことあほまろの近くまでやって来ました。写真で見ると、ずいぶん堂々とした顔つきですね。
そして、もちろんお浅ちゃんもいましたよ。
おはよう、お浅ちゃん。
こちらもすっかり顔なじみ。カメラを向けても逃げるどころか、「今朝も撮るんでしょ」とでも言いたげな表情で、じっとこちらを見つめております。
やがて二羽は、いつもの瓜生岩子さんの像のところへ。
お浅ちゃんが像の脇で待っていると、貫太郎君が目の前を大きく羽ばたいて横切っていきました。瓜生さんも毎朝こんな連中に付き合わされて、さぞ賑やかなことでしょうね。
それにしても、こうして間近で見るカラスの羽は、ただの「真っ黒」ではありません。朝の光を受けると、青や紫、緑がかった艶が浮かび上がり、なかなか美しいものですよ。黒い羽の中に、いろいろな色を隠しているのですね。
最後は、あほまろのすぐそばまでやって来て、今日はもう帰るのかいと、首をかしげて見送ってくれましたよ。
今朝はビクトリー君たちに「吉」をいただき、帰りには貫太郎君とお浅ちゃんのお見送り。
寒いから早く帰ろうと思っていたはずなのに、ハトに引き留められ、カラスに引き留められ、結局いつもの朝になってしまいましたよ。
これだから、浅草の朝はなかなか終わらないのです。