back

令和8年(2026)10月3日(土)

「おはよう、レインボーちゃん。今朝はひとりなの?」
「ビクトリー君なら、あほまろさんより先に飛んで行きましたよ。」

「てっきり、ここで待っていると思ったんだけどな……。」
 レインボーちゃんも、ちょっぴり不思議そうな顔をしております。

「まあ、そのうち戻って来るでしょう。」
 長年連れ添った仲ですから、慌てる様子もありませんね。

――そのころビクトリー君は。
「ボクなら、ここにいるよ。」
 なんと、境内をひとりで歩き回っておりましたよ。

「今朝は境内のパトロールですか?」
「異常なし! ただいま巡回中であります。」

「おはよう、ビクトリー君。レインボーちゃんが待っていましたよ。」
「えっ、もう来ていたの?」

「ところで、境内のハトたちはみんな元気でしたか?」
「もちろん。今朝もみんな元気ですよ。」

 話が終わると、ビクトリー君は突然こちらへ向かって飛び立ちました。

 大きく翼を広げて、一直線。
 この顔を見ると、着地点はもう決まっているようですね。

 そして最後は、いつものようにあほまろの手の上へ。

 お帰り、ビクトリー君。今朝もパトロール、ご苦労さまでした。

 こうして今朝も、レインボーちゃんとビクトリー君の夫婦に振り回されながら、浅草寺の朝が始まったのでありました。

 飛び回って戻って来ると、

 レインボーちゃんも来てましたよ。

 ハート君はまだかな。

。

 ハート君が居ないほうが、平和で良いのさ。

「平和を乱して、悪かったな。」
 ハート君、文句を言いながらやって来ました。

「またく、いつも二人は仲が悪いんだから。」

「そっと距離を置く」のが賢明なのさ。」

 散歩の帰り道、どこからともなく一羽のカラスが、地面すれすれを滑るように飛んで来ましたよ。

「おや、貫太郎君。おはよう。今朝も迎えに来てくれたのかい」
 貫太郎君は、あほまろの前に降り立つと、ちょっと得意そうな顔をしてこちらを見つめておりました。
「おはよう、あほまろさん。今朝も散歩の帰りだね」
「もちろんですよ。それより、お浅ちゃんはどうしたの。今朝はひとりなのかな」

「あら、私はここにいますよ」
 声がしたような気がして目をやると、なんとお浅ちゃんは、ちゃっかり瓜生さんのところで待っていたのでありました。

「なんだ、お浅ちゃん。そんなところにいたのかい」

「だって、ここで待っていれば、散歩から帰って来るあほまろさんに必ず逢えるでしょう」

なるほどね。最近の二羽は、あほまろの散歩コースをすっかり覚えてしまったようですよ。

そこへ貫太郎君もやって来て、瓜生さんの前で夫婦そろって朝のご挨拶です。

「貫太郎君、今朝の境内はどうでしたか」

「異常ありません。ハトたちも元気、週末なので、観光客もぼちぼち。こちらも夫婦そろって異常なしですよ」

「貫太郎君、そこは休憩所じゃありませんよ」

「瓜生さんに叱られても知りませからね」

「いいじゃない。瓜生さんは何もおっしゃらないもの」

 確かに瓜生岩子さんは、いつもの穏やかなお顔のままです。カラスが一羽乗ろうが二羽乗ろうが、百年以上も浅草を見つめてきたお方ですから、このくらいでは驚かれないのでしょうね。

 二羽が並ぶと、瓜生さんを囲んで家族写真でも撮っているようでしたよ。

 やがて二羽は、それぞれお気に入りの場所に落ち着きました。
「それじゃ、あほまろは帰りますよ。また明日ね」

 するとお浅ちゃんが、あほまろの後を着いてきました。

「明日も来るんでしょう?」

「寝坊しちゃ駄目ですよ」

 誰に言っているのでしょうね。午前四時前から歩き回っているあほまろに、カラスから寝坊の心配をされる筋合いはありませんよ。

 こうして今朝も、貫太郎君とお浅ちゃんに見送られて、あほまろの早朝散歩はおしまい。

 毎朝同じ道を歩いているつもりでも、待っていてくれる顔があるだけで、その朝は昨日とは違う朝になります。

 ハトのビクトリー君とレインボーちゃん、そしてカラスの貫太郎君とお浅ちゃん。

 人間同士なら「また明日」と約束しなければなりませんが、この連中とは約束なんていりません。

 明日の朝も、いつもの場所へ行けば、きっと誰かが待っている。

 そんな小さな楽しみがあるから、浅草の朝は、やっぱり深いのでありますよ。

back