「おはよう、レインボーちゃん。今朝はひとりなの?」
「ビクトリー君なら、あほまろさんより先に飛んで行きましたよ。」
「てっきり、ここで待っていると思ったんだけどな……。」
レインボーちゃんも、ちょっぴり不思議そうな顔をしております。
「まあ、そのうち戻って来るでしょう。」
長年連れ添った仲ですから、慌てる様子もありませんね。
――そのころビクトリー君は。
「ボクなら、ここにいるよ。」
なんと、境内をひとりで歩き回っておりましたよ。
「今朝は境内のパトロールですか?」
「異常なし! ただいま巡回中であります。」
「おはよう、ビクトリー君。レインボーちゃんが待っていましたよ。」
「えっ、もう来ていたの?」
「ところで、境内のハトたちはみんな元気でしたか?」
「もちろん。今朝もみんな元気ですよ。」
話が終わると、ビクトリー君は突然こちらへ向かって飛び立ちました。
大きく翼を広げて、一直線。
この顔を見ると、着地点はもう決まっているようですね。
そして最後は、いつものようにあほまろの手の上へ。
お帰り、ビクトリー君。今朝もパトロール、ご苦労さまでした。
こうして今朝も、レインボーちゃんとビクトリー君の夫婦に振り回されながら、浅草寺の朝が始まったのでありました。
飛び回って戻って来ると、
レインボーちゃんも来てましたよ。
ハート君はまだかな。
ハート君が居ないほうが、平和で良いのさ。
「平和を乱して、悪かったな。」
ハート君、文句を言いながらやって来ました。
「またく、いつも二人は仲が悪いんだから。」
「そっと距離を置く」のが賢明なのさ。」
散歩の帰り道、どこからともなく一羽のカラスが、地面すれすれを滑るように飛んで来ましたよ。
「おや、貫太郎君。おはよう。今朝も迎えに来てくれたのかい」
貫太郎君は、あほまろの前に降り立つと、ちょっと得意そうな顔をしてこちらを見つめておりました。
「おはよう、あほまろさん。今朝も散歩の帰りだね」
「もちろんですよ。それより、お浅ちゃんはどうしたの。今朝はひとりなのかな」
「あら、私はここにいますよ」
声がしたような気がして目をやると、なんとお浅ちゃんは、ちゃっかり瓜生さんのところで待っていたのでありました。
「なんだ、お浅ちゃん。そんなところにいたのかい」
「だって、ここで待っていれば、散歩から帰って来るあほまろさんに必ず逢えるでしょう」
なるほどね。最近の二羽は、あほまろの散歩コースをすっかり覚えてしまったようですよ。
そこへ貫太郎君もやって来て、瓜生さんの前で夫婦そろって朝のご挨拶です。
「貫太郎君、今朝の境内はどうでしたか」
「異常ありません。ハトたちも元気、週末なので、観光客もぼちぼち。こちらも夫婦そろって異常なしですよ」
「貫太郎君、そこは休憩所じゃありませんよ」
「瓜生さんに叱られても知りませからね」
「いいじゃない。瓜生さんは何もおっしゃらないもの」
確かに瓜生岩子さんは、いつもの穏やかなお顔のままです。カラスが一羽乗ろうが二羽乗ろうが、百年以上も浅草を見つめてきたお方ですから、このくらいでは驚かれないのでしょうね。
二羽が並ぶと、瓜生さんを囲んで家族写真でも撮っているようでしたよ。
やがて二羽は、それぞれお気に入りの場所に落ち着きました。
「それじゃ、あほまろは帰りますよ。また明日ね」
するとお浅ちゃんが、あほまろの後を着いてきました。
「明日も来るんでしょう?」
「寝坊しちゃ駄目ですよ」
誰に言っているのでしょうね。午前四時前から歩き回っているあほまろに、カラスから寝坊の心配をされる筋合いはありませんよ。
こうして今朝も、貫太郎君とお浅ちゃんに見送られて、あほまろの早朝散歩はおしまい。
毎朝同じ道を歩いているつもりでも、待っていてくれる顔があるだけで、その朝は昨日とは違う朝になります。
ハトのビクトリー君とレインボーちゃん、そしてカラスの貫太郎君とお浅ちゃん。
人間同士なら「また明日」と約束しなければなりませんが、この連中とは約束なんていりません。
明日の朝も、いつもの場所へ行けば、きっと誰かが待っている。
そんな小さな楽しみがあるから、浅草の朝は、やっぱり深いのでありますよ。