おはようビクトリー君。
今朝はレインボーちゃんも一緒ですね。
おはようレインボーちゃん。
秋も深まり、夜明けがずいぶん遅くなってきました。今朝の日の出は午前5時36分。夏の頃なら、とっくに明るくなっていた時間なのに、今ではこの時間になってようやく浅草寺の境内にも朝の光が届き始めます。
日の出が遅くなるのに合わせて、浅草寺の開門も午前6時30分となりました。
どうやら季節の時計に合わせて暮らしているのは人間だけではないようで、ビクトリー君たちが姿を見せる時間も、だんだん遅くなってきましたよ。
最近は、おおよそ午前6時前後になってから、ようやくどこからともなく羽音を響かせて飛んで来るのです。
「おはよう、遅かったじゃないか」
そう声をかけると、待たせたことなど気にもしていない様子で、ビクトリー君は大きく翼を広げて、あほまろめがけて一直線。
そして、いつものように手のひらへ。
こうして見ると、あほまろの手はすっかりビクトリー君専用の「止まり木」になってしまったようですね。
しかし、ビクトリー君たちの起床時間が遅くなると困ったこともあります。彼らがやって来る頃には、そろそろ早朝参拝のみなさんも集まり始めるため、静かな境内で一緒に遊べる時間が、夏の頃よりずっと短くなってしまったのです。
今朝も、誰もいない本堂前を自由に飛び回れる時間はほんのわずか。それでもビクトリー君は何度も翼を広げ、あほまろの周りを飛び回り、最後には手のひらに乗って遊んでくれましたよ。
まだ人影の少ない朝の境内で、羽ばたいて、飛んで、また戻って来る――。
たった数分の出来事なのですが、毎朝逢っているあほまろには、この短い時間が何とも愛おしいのです。
大きく広げた翼の向こうには浅草寺本堂。
これから冬に向かえば、日の出はさらに遅くなります。ビクトリー君との「朝の営業時間」も、ますます短縮されてしまうのでしょうね。
それでも、時間が短くなったからこそ、一緒に遊べる一瞬一瞬が大切に思えてくるのです。
明日の朝も、きっとどこからか、バサッ、バサッ――。
そんな聞き慣れた羽音が近づいてきて、あほまろの手のひらへ降りて来てくれることでしょう。
秋が深まるということは、紅葉や涼しさだけではありません。
いつもの朝が、少しずつ姿を変えてゆくことでもあるのですね。そして、そんな小さな変化を毎朝見つけられるのも、浅草の朝を歩き続けている楽しみのひとつなのですよ。
ビクトリー君と遊び終えた頃になって、今度はハート君も遅れて姿を見せてくれましたよ。秋になって日の出が遅くなったせいでしょうか。ハトたちもすっかり朝寝坊になってしまったようですね。
ようやく現れたハート君は、何事もなかったような顔で棚の上へ。こちらが「ずいぶん遅かったじゃないか」と声をかけても、首をかしげながら、
「秋なんだから、朝はゆっくりでいいでしょう」
とでも言いたげな顔をしておりましたよ。
それにしても、こうして近くで見るハート君はなかなか凛々しいですね。首元には緑や紫の光沢が浮かび、赤い目を輝かせながら、胸を張って辺りを見回しております。
以前、怪我をしていたところを助けたハート君ですが、今ではそんな昔のことなど忘れてしまったかのように元気いっぱい。それでも、あほまろの近くへ来てくれる姿を見るたびに、あの時助けた小さな命が、今朝もこうして元気に目の前にいることが嬉しくなるのです。
帰りに影向堂の庭へ立ち寄ると、今朝も貫太郎君があほまろを待っておりましたよ。
おはよう貫太郎君。
竹垣の上にちょこんと止まり、こちらを見つめながら、
「今日はずいぶん遅かったですね」
とでも言いたげな顔をしておりましたよ。
最近では、あほまろがこの辺りを通る時間を覚えてしまったのでしょうか。こちらが探すより先に向こうから姿を見せてくれることも多くなり、すっかり朝の顔なじみになってしまいました。
しかし、今朝はいつも一緒にいるお浅ちゃんの姿が見当たりません。
「お浅ちゃんはどうしたの?」
と尋ねても、貫太郎君は知らん顔。もっとも、カラス語が分からないあほまろに説明したところで仕方がないと思っているのでしょうね。
それでも貫太郎君は一羽で、岩子さんの像のところまでやって来ました。像の前に堂々と陣取る姿を見ていると、まるで岩子さんのお供でもしているようです。
こうして間近で眺めてみると、カラスは決して「真っ黒」な鳥ではありませんね。
光の加減によって、羽には青や紫、緑がかった美しい光沢が浮かび上がります。特に今朝の貫太郎君はなかなかの男前。大きなくちばしに澄んだ目、艶やかな羽――。本人もそれを知っているのか、カメラを向けても逃げるどころか、堂々とポーズまで決めてくれましたよ。
そんな貫太郎君を眺めながら思い出したのが、昨日、札幌の友人から送られてきたカラスの写真集です。札幌カラス研究会が出版した、札幌で暮らすハシブトガラスたちを記録した写真集でした。
札幌のような大都会でも、カラスたちは人間の暮らしのすぐそばで、ちゃんと自分たちなりの生活圏を築いて生きているようです。
考えてみれば、浅草の貫太郎君たちも同じですね。
観光客で賑わう浅草寺の境内であっても、人間の営みをうまく利用しながら、子育てをし、夫婦で行動し、時にはあほまろの散歩にも付き合ってくれるのです。
札幌のカラスも浅草のカラスも、都会に「仕方なく住んでいる」のではなく、人間の作った街をちゃっかり自分たちの暮らしの場所にしてしまったのでしょう。
カラスは賢い鳥だといわれますが、人間のほうが彼らの生活を観察しているつもりで、実は向こうからも毎日、観察されているのかもしれませんね。
そして今朝も最後は、貫太郎君が大きなくちばしを開いて一声。
「カー!明日もちゃんと来いよ」
そう言われたような気がした、秋の影向堂なのでありました。
手水場では、スズメが大きな虫を見つけて、しきりに突いておりましたよ。
どうやら朝ごはんにするつもりのようですが、自分の身体と比べてもかなりの大物です。何度もくちばしで突いてみるものの、大きすぎてうまく銜えることができません。
せっかく見つけたご馳走なのに、
「さて、こいつをどうやって食べたら良いものか……」と、虫を前にして困り果てているようでした。
そこで見かねたあほまろが、足で踏んで小さくバラしてあげましたよ。
するとスズメは逃げるでもなく、さっそく食べやすくなった獲物を確認しておりました。まさか浅草寺の手水場で、スズメの朝食のお手伝いをすることになるとは思いませんでしたけどね。
ビクトリー君たちと遊び、貫太郎君に挨拶をして、最後はスズメの朝ごはんのお世話まで――。あほまろの早朝散歩は、いつの間にか境内の鳥たちの御用聞きになってしまったようですよ。
それにしても、小さなスズメにとっては大ご馳走。
「大きすぎて食べられない」なんて、人間なら何とも贅沢な悩みですけどね。