おはよう、ハート君、ピースちゃん。
あほまろの姿を見つけると、二羽そろってトコトコと走って来てくれましたよ。
遅いじゃないか、あほまろ。いったいどこへ行ってたんだよ。ずいぶん寂しかったんだからね。
ごめん、ごめん。あほまろは北海道へ旅に出ていたのですよ。一昨日には浅草へ帰って来たのですが、昨日は雨だったので、みんなに逢えませんでしたね。
わずか一週間ほど留守にしただけですが、ちゃんと覚えていてくれたようです。
当たり前じゃないか。僕たちとは長い付き合いなんだから、一週間くらいで忘れるものか。
それを聞いて、ちょっとうれしくなったあほまろなのでした。
ところで、いつも真っ先に姿を見せるビクトリー君が見当たりませんね。
「ビクトリー君なら、そのうち来るんじゃないの」
なんて話していると――、
「おはよう、あほまろ。僕ならここにいますよ」
いました、いました。ビクトリー君です。
あほまろの姿を確認すると、いつものように、さっそく棚の上へ飛び上がって来ましたよ。
「北海道もいいけど、やっぱり浅草の朝がいちばんだろ」
はいはい、おっしゃる通りでございます。
ビクトリー君は棚の上を悠々と歩きながら、まるで留守中の境内の出来事でも報告してくれるように、あほまろのそばから離れませんでしたよ。
棚の上はいつもの顔ぶれに。ほんの一週間逢わなかっただけなのに、ずいぶん久しぶりのような気がしますよね。
あほまろがビクトリー君と久しぶりのお話をしていると、そこへ「おいおい、あほまろを独り占めするんじゃないよ」と、ハート君が近寄って来ました。
突然、ビクトリー君めがけて飛びかかっていきましたよ。
この二羽、決して仲が悪いわけではないのですが、なぜか時々こうして取っ組み合いの喧嘩を始めるのです。
最初はちょっとした小競り合いかと思って眺めていたのですが、今日はいつも以上に激しいですよ。
羽を大きく広げ、押したり押されたり、つついたりつつかれたり。狭い棚の上は、たちまち大乱闘の舞台となってしまいました。
こらこら、喧嘩はやめなさい!
まったく君たちは、あほまろが一週間も留守にしていたというのに、再会早々これですか。
あほまろが慌てて割って入ると、ようやく二羽は離れてくれました。
もしかするとハート君は、北海道から帰って来たあほまろがビクトリー君とばかり話しているので、ちょっぴり焼き餅を焼いたのでしょうかね。
僕だって、ずっとあほまろの帰りを待っていたんだからね、まったく・・・
喧嘩をしたらおやつをあげませんよ。
ごめんなさい。
でも、こんな騒ぎまで含めて、ようやくいつもの浅草の朝が戻って来たということなのでしょうね。
今朝の浅草寺は、ハトたちからのちょっと賑やかな「お帰りなさい」で始まったのでした。
帰り道、いつもの瓜生岩子さんのところまで来ると、お浅ちゃんが待っていましたよ。
「おはよう、お浅ちゃん。あほまろが留守の間も、ちゃんと瓜生さんを守ってくれていたのですね」
すると、どこからかカァ、カァと声が聞こえてきました。
振り返ってみると、木の枝の上には観太郎君。どうやら夫婦そろって、あほまろがやって来るのを見ていたようです。
「観太郎君、そんな高いところにいないで、こっちにおいで」
声をかけると、やって来ましたよ。
これでいつもの顔ぶれがそろいました。
観太郎君とお浅ちゃんは、あほまろが勝手に任命した「瓜生岩子さんの警備係」なのですから、勤務中に夫婦が離ればなれになってはいけませんよね。
もっとも、瓜生さんにしてみれば、毎朝頼んでもいない警備員が二羽もやって来て、銅像の肩や台座を自由に歩き回っているのですから、少々迷惑かもしれませんけどね。
二羽とも、あほまろの顔を見ると、いつもより近くまで寄って来ましたよ。
ところで、あほまろ。ずいぶん見なかったけど、どこへ行ってたの。寂しかったよ。
そんな顔で見つめられてしまいましたよ。
ごめん、ごめん。北海道まで旅に出ていたのです
でも、一週間留守にしていても、ハトたちも、観太郎君も、お浅ちゃんも、ちゃんとあほまろのことを覚えていてくれました。
今朝はハート君たちに「お帰り」と迎えられ、帰り道ではカラス夫婦にも「どこへ行ってたの」と叱られてしまいましたね。
旅から帰って来たことをいちばん実感させてくれるのは、見慣れた景色ではなく、いつもの場所で待っていてくれる、いつもの顔なのかもしれません。
さあ、観太郎君、お浅ちゃん。
あほまろも帰って来たことですから、今日からまた一緒に朝の見回りをよろしくお願いしますよ。
瓜生さんの警備、まかせなさい。
それでは、あほまろは帰りますよ。
また明日ね。