おはよう、ビクトリー君。
おはよう、レインボーちゃん。
今朝も日の出前の薄暗い境内へ、二羽そろって仲良く飛んできてくれましたよ。
この時間は、まだ参拝にいらっしゃる方もまばらです。本堂前の広い石畳も、ほとんど人影がありません。となれば、ここからしばらくは、あほまろとビクトリー君だけの貸し切り舞台となるのです。
「それでは今朝も始めますよ」とでも言いたげに、ビクトリー君が飛び立ちました。
右へ左へ、上へ下へ。広い本堂前を縦横無尽に飛び回り、
ときにはあほまろの目の前めがけて一直線。翼をいっぱいに広げてこちらへ向かってくる姿は、毎朝見ているとはいえ、なかなか迫力がありますよ。
そして、ひとしきり飛び回って疲れると、ちゃんとあほまろのところへ戻ってきます。
手のひらを差し出すと、羽ばたきながら速度を落とし、最後はちょこんと着地。これがもう、すっかり毎朝のお決まりになってしまいました。
そんな様子をご覧になっていた、毎朝お参りにいらっしゃるおばさんが、
「まるで飼いバトのようですね」と笑っておっしゃいましたよ。
そうなのです。飼っているわけでも、籠に入れているわけでもありません。名前を呼んだからといって、必ず来なければならない義理だって、ビクトリー君にはありません。
それなのに毎朝、向こうから飛んできて、あほまろの周りを飛び回り、最後には手のひらへ戻ってくるのですから、考えてみれば不思議な関係ですよね。
むしろ飼いバトより自由で、飼いバトより仲良しなのかもしれません。
もちろんレインボーちゃんも、少し離れたところからちゃんと見ています。
「またやってるわね」
なんて思っているのかもしれませんね。
自由に飛び回れる鳥が、自分の意思で戻ってきてくれる――。それが何より嬉しいのですよ。
誰もいない日の出前の浅草寺。静かな本堂前を自由に飛び回るビクトリー君と、それを追いかけて写真を撮るあほまろ。そして疲れたら、いつもの手のひらへ。 毎朝繰り返している何でもない光景ですが、こういう何でもない時間こそ、後になってみれば大切な思い出になるのでしょう。
明日からあほまろは北海道へ出かけるので、しばらくこの朝の遊びもお休みです。
ビクトリー君、レインボーちゃん。あほまろがいないからといって、浮気しちゃ駄目ですよ。
30日の朝には、またいつもの場所で手のひらを広げて待っていますからね。
「籠もなく 紐にもつながぬ 鳩なのに 呼ばずとも戻る 朝の手のひら」(阿呆人也)
これこそ、長い時間をかけて出来上がった、あほまろとビクトリー君との「朝の約束」なのでしょうね。
そして、いつもの帰り道。
あほまろが定点観察をしながら写真を撮っていると、どこからともなく黒い影が近づいてきました。
芝生の上に降りて、こちらをじっと見つめています。
おはよう、貫太郎君。
昨日までは雨や台風の影響もあって、ゆっくり逢うことができませんでしたね。
もしかすると、あほまろが境内を歩いている姿を、ずっと遠くから見つけていたのでしょうか。
カラスは目が良いといいますからね。
「あ、やっと来たぞ」
と気付いて、いつもの場所まで先回りしてくれましたよ。
「こっちだよ、遅いぞ」
と、帰り道を案内してくれているようでしたよ。
それにしても貫太郎君、今朝はずいぶんおしゃべりですね。
写真を撮っていると、首を傾げたり、空を見上げたり、こちらを見つめたり。そして大きな嘴をいっぱいに開いたり、
ところで貫太郎君、お浅ちゃんはどうしたのかな。
いつもなら夫婦そろって姿を見せてくれるのに、今朝は貫太郎君ばかり。
「まさか、また夫婦喧嘩でもしたんじゃないでしょうね」
などと余計な心配をしていると――、
後ろの方から、
「か〜!」
あれっと、振り返ると、
「ここに居ますよ」
と言わんばかりに、お浅ちゃんもちゃんと姿を見せてくれたのでした。
なんだ、居たのですね。
人間というものは勝手なもので、いつも二羽でいる姿を見慣れてしまうと、一羽しか見えないだけで心配してしまいます。
でも貫太郎君もお浅ちゃんも、こちらが思っている以上に自由です。あほまろに逢うためだけに暮らしているわけではありませんからね。
それでも、毎朝同じ道を歩き、同じ場所で写真を撮っていると、向こうもこちらを覚えてくれる。
ビクトリー君は手のひらまで飛んできてくれますが、貫太郎君とお浅ちゃんは、ちょっと離れたところから先回り。 鳥にもそれぞれ付き合い方があるのですよ。
そんなところは、案外、人間同士のお付き合いより上手なのかもしれませんね。
明日からあほまろは北海道です。しばらく朝の巡回はお休みになりますが、貫太郎君、お浅ちゃん、留守中の浅草寺境内をよろしく頼みますよ