表紙絵
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第四章 乱舞の朝


 吾輩はハトである。名はまだない──だが、浅草の朝を告げるのは、この吾輩の乱舞である。
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 今日もあほまろが写真機を抱え、境内に現れる。合図など不要だ。吾輩は翼を広げ、石畳を舞台に空へと踊り出る。人間も犬友も見上げ、朝の光とともに喝采を送る。まさに「乱舞の朝」であった。
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 だが、その時である。
突如として黒い影が割り込み、吾輩の円環を乱した。余所者のカラスであった。観客はざわめき、犬友は吠える。
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 ふむ……吾輩は鳩。鳩は平和の象徴とやらで、争いを好まぬはずの存在だ。だが現実は皮肉である。平和を愛しても、舞台を奪われては座して待つことはできぬ。守るべきものがあるとき、争いを避けられぬのは人も鳩も同じであろう。
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 吾輩は旋回を速め、余所者を翻弄する。翼がぶつかりそうな瞬間でさえ、吾輩は乱れぬ。むしろ観客の視線を奪い取り、舞を闘いへと昇華する。勝敗はどうでもよい、重要なのは「舞台を守ること」なのだ。
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 やがてカラスは退散した。空には吾輩の羽音だけが残り、境内は再び静寂に包まれた。人間どもは安堵の息を漏らし、犬友は尻尾を振る。
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 吾輩は胸を張り、声なき声でこう呟いた。
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「争いは好まぬ。だが、舞を乱す者あれば、我が翼をもって応えるまで。」
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──これぞ乱舞の勝利、これぞビクトリー。
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