東京寄席さんぽ十月下席

 明日の朝は鳥取に出張するというのに、それも武蔵野線新三郷駅の始発ではとうてい間に合わない朝七時羽田空港発というチョー早朝便に乗らなければいけないというのに、その前夜にどー考えても終演が遅くなりそうな新宿・紀伊国屋サザンシアターの落語会に来ている僕は、フツーの会社員です。ちょっと病気だけど。

高田文夫氏が主催する「たかだ笑学校」は毎回一クセも二クセも三クセもある出演者が楽しみなのだが、今回は普段の上を行く四クセも五クセもありそうなメンバーなのだ。開口一番がアンタッチャブルな芸の持ち主・鳥肌実で、二ツ目が芸能界謹慎男・そのまんま東。これだけでも、なんというか、何といおう。とにかく見に行かなければ(聴きにというより見にだよなー、やっぱし)と、いつもの開演五分遅れペースで出掛けたら、どっしぇー、ものすごい客ではありませぬか、姫。ドアの向こうには補助イスを置くスペースも見あたらない。ぼう然と立ちつくすビョーニンの僕を見て可哀相だと思ったか、顔見知りのスタッフが、最後尾のはじっこにやたら座高の低いイスを一脚ねじ込んでくれた。

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10・23(火)

<たかだ笑学校>(紀伊国屋サザンシアター)

鳥肌実

そのまんま東

清水ミチコ:60~90年代ヒットパレード

  仲入

 松村邦洋

 浅草キッド

 放談:全員

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 高座では、もう鳥肌実の芸が始まっていた。低い、絞り出すような声で、自己紹介のような、身の上話のような、近況報告のような事をぼそぼそしゃべって、「鳥肌実、四十二歳、厄年」で締めくくる。これを延々繰り返すのだ。話の内容は・・・、○`△☆?◇ー。とてもかけません!!!興味のある人は勝手に鳥肌のライブを見に行ってね。きっと、とてもすごいから。で、もひとつ気になるのが、この日の観客の反応だが、これがバラバラ。細かいギャグにもグハハハハとウケまくる人の隣に、もう体ごと引きまくっている人がいたりして、ほんとにアヤシイヤツなのだった。

 「鳥肌実・・・。あいつはテレビ、出らんないですよ。オレは別の意味で出らんない」と、そのまんま東。万雷の拍手で迎えられ、ちょっとうろたえているみたい。

 「今日は高田先生から、『謹慎を主体にした芸能生活』という題をもらったんだけど、それじゃ『芸能生活』にならないって!」とほえながら、三回に及ぶという謹慎生活を、世間話のような感じでしゃべりだした。

 「最初は一九八七年のフライデー襲撃事件。オレ、やだったんだよー。講談社のエレベーター、嫌々最後に乗ったの。ブーッと鳴ると思ったら鳴らないで、そのまま編集部についた。そしたら、降りるときは一番前になっちゃうんだよねー。で、記事には『東、先頭切る』だって。あと、九八年十月三日、今日じゃねーか。記念日だね。渋谷のイメクラ『年中夢中』。そこが未成年使ってたんだよね」

 「こないだ女子高校生がタバコすってたから、『君たち、未成年がタバコすっていいのか』と注意したら、『何言ってんのよ、未成年好きなんでしょ』だって。そーゆーことじゃないだろっ!」

 「あとねー、『東さん、盗撮したビデオ見せてよ』って言われるの。オレじゃないって。アレはシャネルズ!」

 謹慎ネタは快調だったが、本来のネタに入ると、空回り気味。久しぶりの大人数のライブで、笑いの間が狂っている感じなのだ。「十一月三日の早大の学園祭の準備」とかで、二十年ぐらい前の漫才ネタの焼き直しをやったが、見事に不発だった。大丈夫か、東。

 「ハイホー」のテーマにのって登場の清水ミチコ。いきなり「今日は出番がキチ○イ順」と叫んでやんやの喝采だ。高座は、一九六〇~七〇年代のヒット曲を歌いまくる「清水流ヒットパレード」。「恋の季節」で始まって、「赤い風船」、百恵あり明菜あり聖子ちゃんあり、宇多田ヒカル、CHARA、UAにおまけがDA PUMP。これじゃ一人カラオケ大会じゃん。

 狭い通路に無理やり置いた補助イスでは、仲入の客の出入りに耐えられない。イスを畳んでロビーに出たが、ここも狭いんだよねー。タバコの煙を避けながら移動を繰り返しているうちに、すっかり疲れてしまった。

 後半は、松村クンから。一部で人気の「プロジェクトX」のスタイルで、「金八&仙八先生」出演タレントのその後を語る。・・・・・・。相変わらず、メモと首っ引きの頼りない芸。カワイイとみるか、そろそろオトナになりなよと見るか、評価の別れるところだろう。

 「笑学校」ではトリと決まっている浅草キッドは、堂々たるしゃべくり漫才。抜群の安定感で、笑いをとっている。

 「九月十一日、あの忌まわしい事件が起こった日、泉ピン子は五十四回目の誕生日を迎えた。おめでとー」

大喜利は、恒例の主演者全員による楽屋話。もう話題は鳥肌実のことばっかり。関係ないけど、鳥肌の素の話を初めて聞いた。ちょっと北関東風の訛りがあるのね。

 たとえば浅草キッドの暴露話。

 「鳥肌が今年になってテレビに出たのは、キッドの番組だけなんですよ。TBSで手見せをして、スタッフが安心してるから、『あいつは手見せと本番の違う男だから気をつけろ』と注意したんです。で、番組では、『玉砕』なんて書いてあるアブナイ服で演説。最初の数分で各方面から抗議があって、顔しか映さなくなった。で、いろいろあって、結局、十五分のネタが七分でおしまい。いきなりCMになった」

 鳥肌本人の話。

 「ある雑誌で対談をしたんだけど、ウケ狙いでいろいろ言った。これを活字にされたら暗殺されるからと、全面手直しをしてもらった。そしたら編集長が『編集後記』で『鳥肌実の直しはヒデエ』ってイヤミ言ってんの。何言ってるんだ、○○○○(注:女性議員)について言ったことは勝手に削っておいて。ああいいのは僕の雑誌でやりたくないって・・」

 「で、○○○○のことなんて言ったの?」

 「いや、トンカツの腐ったようなニオイがするとか・・・」

えーかげんにせーよ。

明日からの出張に向け、荒唐無稽やけくそパワーを得たライブだった、と書いておこう。

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初めて足を踏み入れた鳥取県。鳥取砂丘も二十世紀ナシ博物館も倉吉の倉造りの町並みも通り過ぎて、あの横長の県の真ん中辺りにある三朝(みささ)温泉に行った。旅ルポの取材で温泉二泊三日は、絵に描いたような「湯の町」だった。山懐に抱かれるような小さな盆地の中央を清流が流れ、両岸に大小さまざまな旅館、ホテルが立ち並ぶ。川辺には露天ぶろの湯煙が漂っている。川に沿って、小さな温泉街があり、土産物屋に混じって、今ほんとに営業しているかどうか疑わしいほどに時代がついたヌードスタジオ、ソープランドがあったりなかったり。こまったのは、僕のとまった旅館の直ぐ脇が「湯女 ○○」という、まさにその手のお店で、旅館に出入りするたびに「ニーちゃんん、ソープどう」と、目つきの良い今時パンチパーマ!の兄さんに声をかけられるのである。しかし、この「湯女」のピンクの看板が、温泉街で一番大きくて目立って、しかもレトロ風味満点なので、若い女性客グループが記念写真をとっていたりする。これ以上詳しいことは十一月一日付け読売夕刊に書いたので、図書館か何かで斜め読みしてくださいませ、ということで先を急ごう。なんてったって、まだ十月下旬なんだからな。

さてさて、旅の疲れも原稿のめどもつかぬまま、帰京の翌日、池袋演芸場へ。ここんとこお気に入りの歌武蔵の独演会だ。いや、楽しみ楽しみ。

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10・27(土)

 <歌武蔵独演会>(池袋演芸場)

  バンビ:のめる

  歌彦:紙屑屋

  彦いち(ウクレレえいじの代演):わくわく葬儀店

  歌武蔵:壺算

   仲入

  さん光:長短

  小雪:太神楽

  歌武蔵:欣弥め

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上り調子の歌武蔵の会。そのうえ、今まで誰かと一緒の会はやってたが、単独の会は初めてらしいと聞いては、混雑も予想される。仕事を無理無理早めに切り上げて駆けつけたら、あららーーー、場内はけっこう空席が目立っている。なんでだろう、ちゃんと宣伝したのだろうか。

歌彦の「紙屑屋」あは、得意の若旦那もので、安定感がある。次はゲストのウクレレえいじ。見たことのないなーと期待していたら、見たことある顔が出てきた。コイツは、もしかしたら林家彦いちではないだろうか。してみると、ウクレレえいじとは、彦いちの世をしのぶ仮の姿???

「えーっ、ウクレレえいじくんは、『雷波少年』に連れていかれました。しばらく帰ってきませんので、友人の僕が代演です。ウクレレの代演が落語…。なんか異種格闘技のようで、好きです。今月は、彼の代演でだけで五本!三日前(の仕事)は、ジャズ、彦いち、シャンソンという順番でした」

そーか、代演だったのか、って当たり前やがな。『雷波少年』関連の事情はよく知らんが、ああいう

番組である。おそらくちょっとアレな企画でどっかに軟禁状態なのだろう。彦いちのマクラは、おなじみ長良川河口堰の反対運動集会で演じた「アウトドア落語」の爆笑エピソード。もう何度も聴いた話だが、硬派アウトドア落語家・彦いちの人となり(?)がストレートに伝わって、気持ちがいい。

さて当夜の主人公、歌武蔵の一席目は「壷算」だ。瀬戸物屋の店先を舞台にした、買い物上手の兄貴と、少しぼーっとした番頭の「買い物攻防戦」を、巨体を生かしたユーモラスな動きと、滑舌がいいとは思えないのに、なぜかテンポのいい早口の啖呵で、軽快に描き出した。相撲上がりの巨体、ギャグ沢山と聞くと、キワモノ的な印象になりがちだが、歌武蔵のいいところは、けっして噺の骨格を崩さないこと。巨大な愛玩動物のようなあの体躯で、オーソドックスな噺をきちんと演じていれば、気をてらわずとも、他の噺家にはない個性がにじみ出てくるはずだ。

「ええ、今日はこういう会ですので、普段の寄席や、テレビなんかでは出来ないネタをやろうかなと。昔は、こういう噺でずいぶん稼いだんですよ」

気を持たせるようなことをいってはじめた二席目は、なんと艶笑小噺のオンパレード。それも、しぐさで見せるものが多く、とても書き文字では表現できない。お嬢様が口をあんぐりあけて「このくらい」、なんていっても、僕には何の事やらわかりませ~ん。あせあせ。ピンクジョークの最後は、かつて馬風副会長がたまーにやっていた「欣弥め」。「これこれ、布団の中に入るのはいいけれど・・」って、アノ噺。第一回の独演会のトリネタがこれでいいのかどうか。自身の独演会をどう位置付けているのか、よくわからない会になった。おもしろかったんだけどねと、池袋駅前のお好み焼き屋で「明太子チーズもんじゃ」をハフハフやりながら首をひねった。

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 10・28(日)

 <芸術祭参加・馬桜独演会>(池袋演芸場)

  三三:釜どろ

  馬桜:幇間腹

  二楽:助六、ウルトラマン、お酉様

  馬桜:たちきり

  仲入

馬桜:二階ぞめき

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 雨の日曜日。柳家さん喬の実家、本所吾妻橋の「キッチンイナバ」で、当掲示板の第二回オフ会を開催した。「志ん朝師死去で元気のない落語界、確実に時代を担う噺家の一人であるさん喬を激励しよう」というスローガンはあるけれど、実態は、七月にやった第一回オフで食べた下町洋食がことのほか美味であったので、もっと別なメニューも食してみたいという食い意地の張った落語好きが二十人あまり集まっただけのことである。

 きのこのスープ、キチンソテー(絶品!)、牡蠣フライ。期待にたがわぬ美味さに頬を緩め、みんなが持ち寄った景品を使っての福引大会も好評で大満足。まだ夕暮れ前の浅草に出てみると、何か噺が聴きたくなった。「では腹ごなしに一、二席」と、そんなことが腹ごなしになるのかどうか、居合わせた六人で池袋演芸場に向かった。

 芸術祭参加をうたった鈴々舎馬桜の会。この間、ご本人に聞いたところによると、今回の狙いは「一人東京寄席」。これが東京の寄席だ、と思える雰囲気を独演会でだすという。まず定席の定番「幇間腹」に、仲入前は人情噺をたっぷり聞かせて、鳴り物入りのにぎやかな噺でハネる。芸術祭の審査員には大阪文化人もいる。そういう人たちに「これが東京の寄席ですよ」とアピールするのも目的だという。

 ほぼ満席の池袋。

 「幇間腹」。この噺、実はあまり好きではない。鍼に凝った若旦那が、無理やり幇間の腹に鍼を打つという、悪ふざけの度が過ぎて、幇間遊びの楽しさがちっとも感じられないからだ。だが、馬桜の噺は面白かった。ふわり軽くて調子がよくて、芸も遊びも熟知しているくせに、ちょっと世を拗ねた感じもする。実物と面と向かったことはないが、古きよき次代の東京の幇間というのは、馬桜のような人だったのではないかという気がした。

 「たちきり」。老舗の商家を舞台にした、若旦那と芸者の悲恋をこってり描く人情ばなしの、こってり部分をさらりと流した。三ヶ月の蔵住まいの後、芸者の死を知った若旦那は涙を見せない。“行間”に悲しみをにじませる演出は、たしかに東京の味だろう。隣に座った大阪系の仲間が「たちきり(大阪では「立ち切れ線香」)ぐらい、気持ちよくなかせてくれ~」と不満げだったが。

 「二階ぞめき」。マニアによるマニアのためのマニアな噺。我が家の二階に作った吉原(!)を一人ひやかして歩く若旦那(今、気が付いた。若旦那三連発じゃん!)。吉原雀のお囃子が流れ、佐野槌から女着物の長兵衛が出てきたり、八ツ橋花魁に見とれるアバタの旦那がいる。細かな入れごとも、十分吟味されており、歌舞伎や落語の知識量に応じて楽しめるような工夫がある。いつでもでこでも出来るという噺ではない。営業的には儲かるとは思えないネタに、これだけのエネルギーを費やす馬桜は、筋金入りの落語マニアである。

 終演後は、目白の御大の「烏龍茶」ボトルがある「茶館」で、東京―上方落語談義。お腹もアタマも、落語でいっぱいの一日だった。

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 10・29(月)

 <桂あやめ独演会>(渋谷クロスタワーホール)

  あやめ:コンパ大作戦

  あやめ:猫の忠信

  仲入

姉様キングス:音曲漫才

ぺー:漫談

あやめ:桜姫菖蒲文章

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 十月下席は、落語協会の真打披露口上の、最後の十日間である。会場の池袋は入りの方もなかなかと聞くが、なにせ平日の昼席はなかなか時間のやりくりが出来ない。そういうときに限って、夜の方は時間が空いちゃうんだよね。今夜は久々に渋谷に出陣。まだ東邦生命といったほうが通りがいいクロスタワーホールで、上方落語のアヤシイ華・桂あやめを聴いた。

 「本日は私あやめの東京での初独演会…(中略)…。大阪では一人で三席以上やらないと独演会とは呼ばない、というのが当たり前なので落語を三出しているのは普通ですが、今回はその上まだ音曲漫才『姉様キングス』の出番まで盛り込んでしまい…」

 やたらと字の多いパンフレットに、詳細な解説が書いてある。ふむふむ。上方流の本寸法に、あやめのスペシャルサービスをつけましたということか。

 前座もなくいきなり登場のあやめ。「月光値千金」の出囃子はおしゃれだが、ご当人はごほごほと咳き込んで苦しそうだ。

 「アタシの定宿は、千駄木の勝太郎旅館いうて、HPで探したんやけど、ガイジンしかとまってないような旅館なんですぅ。でも、今回、都合があって、思い切って山の上ホテルにとまったら、なんか部屋にマイナスイオンが漂ってる~。すっかり風邪ひいて、ホテルのそばで病院探そう思たら、あの御茶ノ水あたりって、ほんと、病院だらけなんですねー、ごほごほ。で、これ終わったら、明日ニューヨークへ行くんです。今安いんですよー。往復三万九千八百円!ロス一万九千八百円も出たんやてねー。もちろんアメリカ系の航空会社ですけど、ごほごほ」

 調子いいんだかわるいんだか、盛大な拍手で始まった一席目は、三十半ばの女性三人が年齢をごまかして、年下のリーマンと合コンするがーー、という噺。あやめ得意の、等身大、同年代の女性の生態を描く新作だ。

 「あんなー、あたしら合コンにはノースリーブなんか着ていったらアカンねん。腕に疱瘡のあとがあるからな。それから、みんな名前に『子』がついてるやろ、きょうび、そんなん少ないから、名前変えよっ」

 「今の私しかにジャストフィットした噺。周りの仲間は私の魂の叫び『ソウル落語!』と呼んでいます」とプログラムに書いてある。大阪三十代女の等身大の物語を、東京四十代等身大じゃないオヤジが聴く。また、うれしからずや。

 一席終えたあやめが「お色直し」に下がったので、着替えの間をお囃子がつなぐ。三味線で聴く「明日があるさ」なんてのも、なかなかのはずが、これが笑っちゃうほどお下手なのである。何回繰り返してもうまくなるどころか、毎回違うメロディーでつっかえる。そのうち、次第に客席の笑い声が大きくなって…。

 「おまたせしました、ごほごほ(まだ咳き込んでる)。お囃子、姉の林家和女ですねん。つなげとはいったけど、笑いをとれとはいってなかった」

 苦笑しながらの二席目は、バリバリの古典「猫の忠信」。これはもう、女流落語ではない。立派な男の落語である。聴いている間、女性が演じているということを一度でも感じた事がなかった。あやめはどこからみても女性だが、噺をしている間はものの見事に「女」を消し去ることが出来るのである。あやめ落語は、新作もいいが、僕はむしろ本寸法の古典落語をと、勧めたい。

 仲入をはさんで登場は、音曲漫才・姉様キングス。あやめのバラライカ、林家「カミングアウト」染雀の、日本髪チョー白塗りコンビが、呆然とする客席に怪しい光線をビシバシ放ってくるのだ。

 「島田かぶって白粉塗れば、違うアタシがこんにちは~」

 オープニングテーマもイカシテル~。芸は本寸法…といきたいところだが、アヤシイ二人だけに、アブナイネタが続出する。

 松竹梅を織り込んで、某人間国宝を歌い上げる。

 「芸はウメー、ギャラはタケー、あとは~お迎え~マツばかり~」

 キャー、怖いよー。最近どんどんお座敷が増えてるとか。いかがわしい雰囲気にあふれた本格音曲漫才、東京の寄席にほしいなあ。

 ででで、本日のスペシャルゲストは、林家ペーだ。小田原丈(!)がメクリをめくると、師・三平の顔をプリントしたピンクのトレーナーに、薄いピンクのズボン。ブランド物らしいバッグを手に下げている。もう、あのチューニングしてないギターは、持たないのかしらん。

 「僕らのようなミュージシャンは、普段、横浜アリーナとか、東京国際フォーラムとか、中野サンプラザとか、よく観に行くんですけどね」

 「今日十月二十九日は、一九二九年、日本語で言うと昭和四年、大恐慌のあった日ですよ。誕生日でいうと、野沢直子、古手川裕子の娘、研ナオコの娘、清原の父ちゃん…」

 べたべたトークの合間に、松崎しげるの「愛のメモリー」を熱唱し、またまた駄洒落トークである。

 「僕らの世代は、プレスリーにビートルズでしたよ。ビートルズ、知ってますか?江藤、今村、山田隆夫…」

 帰りがけ、手に提げたバッグを思い出し、

 「あ、これ?楽屋に置いておくととられるかもしれないから、持ち歩いてるんです」

 マイペースだなあ。

 トリのあやめは、四席目の「桜姫」をはじめる前に、ペーのゲスト出演までの経過というか、ペー・ゲットへの道を猛烈な勢いで話した。

 「アタシがはじめてペーさんにあったのは、もう十何年前です。ペーさんが大阪に来られてて、アタシがたまたま楽屋に寄ったら、いきなり『きみは○月○日生まれで、だれとだれが同じ誕生日』って、初対面の、まったく名前が知られてないアタシの誕生日を覚えてらしたんです。もう感激でしたね。そのときからずーっと、いつか自分の会に出てもらおう思うてたんです」

 だが、ペーとの共演はなかなか実現しない。

 「去年、東京で会やることになって、思い切ってゲストをお願いすることにしたんです。いきなり電話では失礼かと思い、まずファックスで打診したんですが、なんの返事もありませんでした。ああ、縁がなかったんだなあと思てたら、しばらくしてペーさんから丁寧なお手紙をいただいて、『あなたからのファックス、我が家の構造上、電話機とテレビのあいだに落ちてました』。ぎやー。そんなこんなで、今年は絶対やーって、出てもらったんです。ペーさんに出ていただいただけでもうれしいのに、楽屋にはパー子さんまでいるんですよっ。きゃー!」

 トリネタは、「桜姫東文章」を、あかねと熊沢あかねが落語化したもの。お姫様がレイプされ、お家は断絶寸前、ほれた男に女郎に売られ、ホモの心中が絡んだり…というトンデモな展開が、あやめの琴線に触れたのだろう。鳴り物もたっぷり入り、あやめ入魂の一席だったが、意欲が空回りしたか、いろんな要素を詰め込みすぎて、聴いていて疲れてしまった。「今まで演じたものよりスッキリさせた」とのことだが、東京の客相手では、もっと薄味でもいいかもしれない。

 昨日の馬桜、今日のあやめ、タイプの違う三席を力演する、中身の濃い独演会を堪能できた。池袋の披露目は、ついに行けずじまいになった。

 

つづく

   


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