東京寄席さんぽ九月下席その2

 新真打の披露興行が始まった九月下席。「真打強化月間だぜ」なんて威勢のいいことをいっておきながら、一度も上野に足を向けないまま四日たってしまった。連休明けの二十五日、早出でもないのに午前十時(!)に出勤し、たまった仕事をせっせと片づけていたら、アッという間に日が暮れてしまった。ほんとに仕事、たまってたんだなあ。いやいや、感心している場合ではない。今日こそ鈴本へ向かわなければ。午後六時半過ぎに、大手町駅でやたら混んでる千代田線により湯島へ。北口改札を駆け上がって広小路までたどり着いた。このぶんなら、口上には余裕で間に合いそう。ということで、「その1」で書き忘れた話を一つ書いておきたい。二十三日(日)夜の「扇辰・喬太郎の会」の扇辰のマクラが面白かったのである。

扇辰が師匠の扇橋と、落語会で長野に行った時のお話。時間があまったので、長野駅前で、扇橋、扇辰、主催者の三人がそばを食べたんだそーだ。「うまいそばだねー、東京の汁で食いたいんー」なんていいながらモリモリ食った後、ぬあんと扇橋が「勘定はアタシが払うから」と言い出した。珍しいこともあるもんだと感心しながら蕎麦屋を出たら、主催者が「師匠、コーヒーの飲みましょう、こんどは私がごちそうしますから」という。そこで、やはり駅前の古そうな喫茶店に入ったのだが、ここが、なんだかクラーイ感じのオヤジが一人でやってるとこなのね。で、いきなり目の前にドンと本のようなものが置かれた。ああメニューかなと思って開けてみたら、これが今まで取材をうけた記事のスクラップだったりして。あらためて店内を見回すと、「ビクトリア朝のなんとかコーヒー」、「ハプスブルグ家流のなんたらコーヒー」なんて、大時代的なメニューが張り出してある。ああ、ここはそういうこだわりの店なのだなと思いつつ、三人はその「なんたらかんたらコーヒー」を飲み、「ああ、鍋で煮たような味がするなあ」とかかんとか話していたんだそうだ。そして、お勘定という段になって、「はい、八千四百円いただきます」。どっしぇー、ということはー、ひいふうみい・・・、なんと一杯二千八百円!別にぼったくりというわけでもないので、しかたなく、主催者は八千四百円を支払った。外に出て、扇橋が扇辰の耳元でポツリと一言、「そば、払っといてよかったー」。

舞台がぐるーんと回って、長野から一路、上野広小路へ。カラオケのビラまきと、早くも角々に立ち始めた中国方面のおねーさんの「飲ミ、イキマセンカー」攻撃を交わしつつ、ついに上野鈴本演芸場の木戸を突破したのであった。

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九月二十五日(火)

<鈴本・夜席>古今亭駿菊昇進披露興行

たい平:電車でGO

こん平:漫談

扇橋:ろくろ首

 仲入

口上:志ん駒・こん平・駿菊・円菊・扇橋

にゃん子金魚:漫才

円菊:目黒のさんま

志ん駒:漫談&深川

権太楼:代書屋

小雪:太神楽

主任=駿菊:野ざらし

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 さて、いよいよ、いや、かなり引っ張ったから、気持ちの上ではいよいよいよいよいよ、ぐらいかもしれないな。とにかく、九下五日目にして、鈴本にたどり着いた。遅れてきた青年である。「青年」という言葉に引っかかる読者がいるかとは思うが、ここは「遅れてきた」のだから、許してもらえると思う。

テケツ、モギリをすすっと突破し(ちゃんとお金払ってるからね)、花束が並ぶ一回ロビーを小走りにぬけて、奥のエレベーターで三階客席へ。何しろ開演後一時間以上たってるんだから急がなくちゃ。客席担当のおねーさんにドアを開けてもらったら、おおおっ、けっこう入っているではないか。ざっと見たとこ、圧倒的に下町のおばちゃん、おじちゃん風である。「足立区のおぼっちゃん」として一部では有名な駿菊くん、しっかり客を集めているようだ。

ただ、客席の活気に比べると、高座が寂しいような気がする。披露目の高座というと、お祝いの品物が、「おれっちは、こーんなに祝儀を集めたんだもんねー」てな感じで誇らし気に並べられているものだが、今回の装飾は、落語協会の後ろ幕と、高座上手に酒の樽、両わきに花輪、これだけなのである。まあ、新真打十人がそれぞれの頂き物をとっかえひっかえするのも大変だろうし、シンプルに行こうという気持ちも理解できるが、客席のファンにとっては、「へー、○○さんが、あんなもの贈ってきてー」「あれれ、こんなスポンサーも捕まえてたのか」なんて、ずらり並んだご祝儀の山からいろんなドラマを垣間見たりする。それもまた、披露興行ならではの楽しみだと思うのだ。

さて、高座に上がっているのは、去年、喬太郎と二人で抜擢披露をした林家たい平だ。披露目から一年余、堂々たるすっかり真打ぶりである。しかし、こういう善男善女中心の客層だと、彼は強いんだよなー。「笑うの休んだら、承知しないぜ」とでもいうように、間断なくギャグを畳みかけながら、横目でトイレに立つおばちゃんをしっかりチェック。行き帰りに、抜かりなくいじったりするあたりは三平=こん平一門の習性なのだろうが、たい平のおばちゃん笑わせ攻撃は飛び抜けてスルドイ。

まだ、たい平の笑いが高座に残っているところに、師匠のこん平が登場した。こういう客層だと、彼は強い。って、これじゃたい平と同じだが、考えてみれば、師弟なんだから芸風が似てるのは当然か。目の前に客がいたら、なんとしてでも笑わせてみせる。字で書くと大したことはない感じだが、本当は、大したことなんだよなあ、これ。

 こん平のどなりつけるような大声を十分以上聴いてから、扇橋の声を聞くと、ことのほか元気がないように聞こえてしまう。実際、扇橋の語りには肩の力も首の力もへその下も・・・、あわわ、とにかく全身見事に力が抜けて、ただひたすらほんわかほのぼのした物体が、座布団にちょこんと座っているのである。マクラをだらだら話しているうちに、ふと違うことを思いつく。すると、その話をどんどん先に進めてしまい、元のテーマはすっかり忘れ去られてしまう。おやおやどうなるのかなと思って見ていると、最後の最後に気がついて、なんとか軌道修正して本題に入っていく。こう書くと、ずいぶんスリリングな高座のような感じだが、なに実際は、話し手も聴き手もなーんにも心配しておらず、あれちょっと脱線したかな、ああまたいつものアレか、てな予定調和の世界なのだ。力んだ扇橋、理路整然とした扇橋、妖刀の切れ味の扇橋・・・。こと扇橋に限っては、どんなおポンチな落語評にだって、こんな表現が使われることはないのだ。

 仲入を挟んで、口上である。真打披露興行の、最大の見所は、実は口上である。「幹部先輩人気」真打がずらり並ぶが、自分たちは出しゃばらずに、トリの新真打の高座を盛り上げるのが披露目だ、というのがリクツだろう。だが、客席の本音は、やはり口上が一番なのではないか。トリの高座は記念すべきものだが、特別な物ではない。それよりも口上という、古風な儀式を目の当たりにし、さらに、「三本締め」に参加して、新真打への祝いの気持ちを表現することのほうが、観客(ファン)としては、うれしく、ほこらしいものである。

 リクツを捏ねたが、噺家の世界の口上は、歌舞伎ほど華やかでも、文楽ほどストイックでもない。和気あいあいの中に、りんとひとつ、背筋の伸びるものがある、なんとも気持ちの良い儀式である。

 チョーンと柝が鳴って、「とざい、と~ざい」の声。高座下手から、司会の志ん駒、理事こん平、主役の駿菊、師匠の円菊、そして理事扇橋の順で、頭を下げている。

 段取りはたいてい同じだ。司会の紹介に合わせて、協会の理事が次々に「叱咤激励たまにギャグ」の祝いを述べ、最後に新真打の師匠が短く(だれとはいわないが、一部長い人もいる)礼をいう。最後に、その場で一番格上の噺家の音頭で、高座、客席が気を合わせて「三本締め」。この間、新真打は一言もしゃべらず、ただ頭を下げているのだ。

 ただ最近、落語協会で鈴々舎馬風が口上に並ぶときだけは、「バフー型」という、いささか演出過多のスタイルが出来ているのだが、今日は馬風がいないから、ごくスタンダードなものだった。ただ一人目立っていたのが、当夜の最高齢者、扇橋である。

 「真打になったからって、稽古をおろそかにしちゃいけません。人が休んでいる時に、一緒に休んでいるじゃダメなんで、夜も寝ないで一生懸命に稽古する。でもって、昼間みんなが仕事してるときに、昼寝したりして・・・。とにかく稽古に稽古を重ね、一日も早く立派な看板になることが、師匠への恩返しになるんでもって・・・」

 あれ、字で書くと、けっこうマトモだなあ。これねえ、実際に聴いていると、句読点のはっきりしない、だらだらしゃべりがいつ果てるともなく続いて、さらに脱線しという、実に「おーい、どこいくのー」的な口上なのである。こういうのを延々と聴かされると、フツーは「えーかげんにさらせ!」とケツをまくりたくなるものだが、扇橋の人柄というかなんというか、客席みんなが一緒に、あの何ともいえない脱力ぶりを楽しんでしまうのである。気がついたら、体がゆらゆら揺れたりして。とにかく、もう、何の演出もないのに、不思議な面白さがある。今後、あのバフー型に対抗できるのは、扇橋型しかないのではないかと考えていたら、もう三本締めじゃん。ちゃちゃちゃん、ちゃちゃちゃん、ちゃちゃちゃんちゃん×3。今まで忘れていたけれど、しゅんぎくー、がんばれよー。

 後半は、最近絶好調のにゃん子と金魚が盛り上げた後、円菊が季節ネタ「目黒のさんま」を出してきた。おそらく今シーズンの口開けだろう。というのは、マクラの部分から、台詞噛みまくりなの~。客をハラハラさせるのもまた、円菊流なのかもしれないが。

 続く志ん駒は、いつもの自衛隊漫談。「横浜に上陸して歩いていたら、『中国の兵隊か?』って。帽子の『海上自衛隊』を逆に読んだんだね、『隊衛自上海(たいへいじ・しゃんはい)』」てな話で笑わせといて、「じゃ、ひとつ立ち上がって」と踊りの準備。

 「へへへ、数ある寄席踊りのレパートリーの中から、今日はひとつ・・・。(下座に向かって)おししょうさん、じゃ、いつものやつを」って、「深川」しかないんだよね、志ん駒のバアイ。

 軽いネタが続いているのは、披露目の興行だけに、みんなサラリとやって、トリの駿菊にたぷりやらせようということなのだろう。さて主役の駿菊は初めてのトリにどんなネタを持ってくるのか、と考え出したところで、権太楼が「代書屋」を語りだした。「代書屋」といえば、権太楼の人気ネタだ。ちょっと風邪気味と聞いていたが、高座はガチガチの本イキである。権太楼クラスに十八番をセメントマッチでやられたら、場内はもう、爆笑爆笑大爆笑である。楽屋で聞いているはプレッシャーかかりまくりだろーなー。厳しいようだが、これもまた権太楼流の、新真打へのはなむけなのである。

 小雪の可愛くてうまい太神楽をはさんで、主役の登場だ。

 先に高座に上がった先輩たちに軽く礼を言い、客席に簡単に挨拶をするなり、「野ざらし」に入った。駿菊は、大きな体に似合わず器用なタチである。大ネタ、小ネタを破たんなくこなし、「豊竹屋」なんつーマニアックな話でNHKのコンクールで賞をとったりする。守備範囲の広いヤツだが、最も合っているのは、トントントーンと調子のいい噺だ。滑舌、メリハリ、うたい調子。持って生まれた口調の良さを生かすなら、「野ざらし」はぴったりである。明るく、よく笑う客だから、こんな噺の方が、という判断もあるのだろう。寄席の初トリのプレッシャーもものかわ、あっぱれ、堂々の高座ぶりだ。あんまり立派なので、ちょっと緊張してオタオタするのもカワイイんだけどなあと思ってた僕は、ちょっと拍子抜けするぐらい。ま、何にしても、新真打、めでたい門出である。

 寄席がハネた後、仲間を誘って食事でもと話している時に、着替え終わった駿菊が出てきて「アタシたちの打ち上げと同じ店でやってよ。あとで挨拶に行くから」という。それじゃあせっかくだからと、宴会場ヘ向かう噺家たちのあとを、見え隠れについていった。御徒町駅・吉池の手前で、前を行く若手たちが黒服のおっさんにペコペコ頭を下げている。あれー、あやしい人たちかなーと見ていたら、なんだ桂南喬じゃん。そうか、今日は先日亡くなったばかりの太神楽・鏡味仙之助さんの通夜だったんだ。仙之助仙三郎コンビなら、こっちが学生時代から知っている。若いころは、様子が良くて袴が似合って、歌舞伎役者のような感じがした。「インターチェンジ」「金曜スペシャル」「(お互い、相手を指さして)はい、やって」なんてフレーズは、もうきけないんだなあと思いつつ、吉池のエレベーターで四階(?)の居酒屋へ。

 噺家たちの直ぐそばの席だったので、打ち上げ宴会の様子がよくわかる。和気あいあいというより、やかましいな、こりゃ。季節はずれのウグイスが鳴いているのは、物まね自慢の初音家左橋のご祝儀だろう。てなことを考えてたら、三太楼がヘラヘラ顔でやってきた。

「ごくろーさま、楽しそうですねー」

「いやもう宴会つづきで、疲れますね。実は昨日、一日休ませてもらったんですよ。九時から九時まで寝ちゃった」

「もうすぐ自分の披露目でしょ、だいじょーぶー?」

「ここまで来たら、がんがん行くだけですよ。ははははは」

 言ってることは威勢がいいが、もう相当酔っぱらっている。ほんとに大丈夫かなあと心配してたら、汗をふきふき駿菊がやってきた。

「今日はほんとは『宿屋の富』にしようかと思っていたんですけど、お客さん見たら、単純でぱーっと明るいネタがいいかなと思って、『野ざらし』やりました。鈴本はだまっててもけっこう入っていただけそうだったので、地元足立区のお客さんは新宿(末広亭)に来てもらうことにしました。お年寄りが多いのでバスで送迎かな?いやもう、忙しい忙しい」

 うーん。浮かれもせず、酔っぱらいもせず、クールに状況を見ている。三ちゃんよりも、ずいぶん大人な印象である。きちんと話したのは初めてだけど、クレバーなやつ、という印象だった。さて、あっちのオジサンたちが中締めをする前に、外野は消えたほうが良さそうだ。おひらきおひらき。さて、鈴本の披露目、あと何回行けるだろうか。

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 翌二十六日は、仕事の合間を縫って(さぼって、じゃないよ、たぶん)、歌舞伎座の昼の部へ。「名君行状記」「俄獅子/三社祭」「一谷・組打」「藤娘」とまあ、バラエティーに富んだ番組なのだが、印象に残っているのは所作事ばかり。特に芝翫の「藤娘」。素顔は「あごの長いウルトラの父」いたいなオッサン(ファンの人、ごめんねー、これでもほめてんだよー)が、花舞台の上では、なーんであんなに可憐なのか。気持ちが浮き立つような、見事な芸だったよなーと思いつつ、舞台がハネるやソッコーで会社に帰ったら、「ながいさん、紙切りおじさんの娘という方から電話です」だって。カミキリオジサンノムスメ?なんじゃそりゃ。

「あの、日曜版の寄席の記事を書いてる方ですよね?」

「そうですけど、なにか・・」

「こないだの日曜に、『紙切りおっかけおじさん』のこと書いてたでしょ。あたし、その娘なんですよー」

「えええっ!ほんとですか!」

毎日毎日、紙切りの出る寄席をはじごするマイペースのおじいさん。東京の寄席のファンなら知っている奇人変人名物男である。僕の「定点観測」でも、何度か取り上げたことがあるが、去年の夏あたりから姿が見えなくなった。きっと亡くなったんだろうと話していた秋口に、おじさんと入れ替わるように、若い紙切りのおっかけねーさんが出現した。これはもしかしたら、じいさんの遺志を継いだ孫娘が寄席にやってきて・・・、なーんて人情ばなしも噂されたが、実際は何にも関係ないらしいーーー。というような話を、九月アタマの読売「寄席おもしろ帖」に書いたのだった。

ところが、娘さんの話によると、おっかけおじさんは去年の夏の時点では亡くなってはいなかったのである。夏前に足の具合が悪くなってから、寄席通いを断念して、千葉県市川市の自宅で、正楽や二楽や今丸に切ってもらった大量の紙切りを額に入れて部屋中に飾ったり、好きな戦記物のビデオを見たりして過ごしていたが、今年の七月に体力の衰えなどで亡くなったのだという。「紙切りは、世話になった人たちにあげてくれ」という遺言を守って、娘さんは九月初めの四十九日に、額に入った紙切り作品を、親類友人に配った。その数日後、僕の書いた記事が出て、紙切りをもらった人たちが「あれ、お宅のじーちゃんじゃない?」と教えてくれたのだそうだ。

「七十六で亡くなるまで、好き勝手なことやって、亡くなった後も新聞に出て。父は本当に幸せだったと思います。正楽さんにもお礼をいわなくちゃ」と娘さんに言ってもらって、記事を書いた僕も、ほっとしたような。

さっそく正楽さんに電話して、事の顛末を知らせた。

「娘さんは『うちの父は、何かモノに凝ると、夢中になりすぎて、まわりのことが見えなくなっちゃうんです。だから、寄席の人たちに迷惑かけてないかと心配で』といってましたよ。たしかにマイペースの人でしたよね」

「いやもう、確かに困った人という一面はあったけど、紙切りの客としては、いい客だったよ。注文がちゃんとしててね、よし、切ってやろうという気にさせてくれたもんね。注文するのは、歴史的な出来事なんかが多かったね。あと、世界の風物みたいな。え?学校の先生を辞めてから奥さんと世界一周をした?そうか、それで『私と妻がロンドンの公園を自転車で散歩してるとこ』なんて長くて不思議な注文をしたんだね。あ、そうそう、時々不思議な注文があった。『回転ずし』とかね。こんなの切って何になるんだと思うんだけど、この『回転ずし』、二楽にも切らせたみたいだよ。そうかあ、死んじゃったのかあ」

珍しく長電話になった。せっかく娘さんから連絡をもらったのだから、急きょ次の日曜版のコラムで「紙切りおっかけおじさんパート2」を書くことに決めた。

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九月二十九日(土)

<鈴本・夜席>柳家三太楼昇進披露興行

小たか:寿限無

三之助:金明竹

美智:マジック

喬太郎:母恋いくらげ

小猿治:犬の目

金馬:豆屋

ゆめじうたじ:戻りカツオ

扇橋:道具屋

権太楼:代書屋

円窓:首屋

 仲入

口上:扇橋・円窓・馬風・三太楼・権太楼・円菊・円歌

のいるこいる:漫才

円菊:まんじゅうこわい

馬風:漫談

円歌:漫談

小雪:太神楽

主任=三太楼:寝床

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鈴本演芸場に到着したのは、午後四時過ぎだった。週末の夜席、人気のある三太楼の披露目、他の出演者も充実している。これで混まなきゃ、いつ混むのだろう。そう思って早めに様子を見に来たら、この時点で演芸場前に十数人の列が出来ている。先頭は、寄席でよく見かけるH田氏と、Kじいさんだ。

「あれ、何並んでるの?二階建てバス、待ってるんですか?」

「もう二階建てバスなんか走ってないですよー。僕ら並んでるから、ながいさん、そのへんで遊んでていいですよ」

ありがたいお言葉、感謝します。んでも、連れのぶんの席までお願いするわけにもいかないし、そのへんで遊びぶったって、この中途半端は時間、上野広小路で何をすればいいものか。H田氏のご厚意に感謝しつつ、最後尾へ並ぶと、前にいるのが顔見知り。おっつけ後ろに並んだのがネット仲間。木戸の横に、おそらく三太楼の後援会の受け付けがあって、そこにも見た顔がいる。狭いようで狭い、落語の世界なのである。

昼の部が終わったころには、列は広小路交差点方面へどんどん伸びていきJTBあたりに達していた。すぐに入場が始まった。前売券のある客もない客も同じ列で、木戸の前で右と左に別れるという段取りなのだが、並んでいる時には何のアナウンスもないから、「どーなるの」「とりあえず並んどくか?」なんて、客が混乱してしまう。土日は混雑するに決まっているのだから、行列対策ぐらいはスムーズにやってほしいものだ。

前の方に並んだので、下手側四列目の端という好ポジションを確保した。が、実際席に着いてみると、前の客の座高が高くて、高座がみにくい~。前へ回って顔を見ると、この座高男も知り合いだったりして。ほんとに落語の世界は狭い。北は北浦和から南は南浦和まで。いやいや、北は高円寺北から南は高円寺南ぐらいか。とにかく、少ない人数が同じようなところを回遊しているのである。

前座の小たかは、ぬあんとあの、無冠の帝王小三太のお弟子さんだという。恐れを知らないというのは、若さの特権である。この日は「寿限無」を、つっかえもせず無難にこなす。すでに師匠を抜いたか。

三之助の「金明竹」は、恐怖の関西弁口上男が登場する前で切ったので、「金明竹」ではない。こういう場合、なんていえばいいのだろう。「金明竹の上」?

マジックの松旭斎美智。緑色の衣装は実に華やかだが、三太楼の後ろ幕に描かれたカエルの色とまったく同じ色なんだよねー、ケロケロ。おめでたい手品をいくつかやって、住吉仕込みのかっぽれを披露。ベテランらしい、手堅い高座である。

「(顔の前で両手をくねくね動かし)タコです。権太楼ではありません」

「母恋いくらげ」の冒頭からエンジン前回の喬太郎。小学生の遠足バスで歌合戦、という場面で「ウルトラマンタロウ」の替え歌・披露興行バージョンが飛び出した。

権太楼師匠がいる

小さん師匠がいる

そして柳家三太楼

(中略)

寄席の客席が重い時

胸の扇子が輝いて

タロウが飛び立つ

タロウが戦う

タロウ タロウ タロウ

柳家三太楼~

ひざ立ちで、腕を大きく振りながら大まじめに歌い上げる喬太郎。万雷の拍手に応えて、

「まだ歌うぞー」。と、なれば、曲目は決まってるよね。でも、あーゆー歌を披露目で歌ったいいものか?なんて考えているうちに、もう始まっちゃった。

「公衆電話の受話器をもって~」

東京ホテトル音頭。客席は盛り上がったが、この歌、どこが三太楼のお祝いになるのだろうか。

小袁治、金馬、扇橋と、ほのぼの系が続く。扇橋の「タコの歌」、久々に聞きました。「昨日生まれたタコの子が~」。ああ力が抜けていく~。

すっかり和んだ客席が、三太楼の師匠、権太楼の登場で一気に爆発した。やんややんや、ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち・・・、いつまでたっても拍手がなりやまない。たまらず権太楼が両手で制すと、ぴたっとものの見事にとまった。風邪でもひいたか、鼻声が苦しそうだ。「昼の部の『町内の若い衆』もつらそうだったよ」と連れが言う。披露目の疲れが出てくるころなのだろう。

仲入前の円窓はマクラが長い。

「座ったっきりの芸能というのは、落語だけですよ。いずれ、寝たきりの芸能になりますね。(中略)噺家の廃業者を追跡調査したんです。しかし、みんなダメですね。クリーニング屋になったやつは、オチが悪い。銀行員になった人もいるけど、口座(高座)がメチャクチャ・・・」

うーむ。今日はめでたい披露目、コメントは控えよう。

客席を見渡すと、通路は補助イスで埋められ、さらに立ち見が二十人ぐらい。ほんっっっっっっっとに満員である。休憩になっても、トイレに立つこともできない。と、聞き覚えのある野太い声のアナウンスが流れてきた。

「お客様にお知らせがございます。四階の女子トイレに、入れ歯の忘れ物がありました。ただいま三遊亭円窓が預かっておりますので、お心当たりの方は楽屋の方へ・・」

バフーだあ。鈴々舎馬風がリードする、最近の落語協会スタンダードの口上は、この間抜けなアナウンスから始まるのだった。

幕が開くと、客席が「おおっ」とどよめいた。高座にならんだゴマ塩アタマがひいふうみい、なんと七つも並んでいる。口上で七人、大盤振る舞いじゃん。

扇橋「ええ、こんなに入った日は(この芝居)初めてですねえ。うしろで立ってる人もいる。男性だから、立ってるのも当たり前ですか・・。噺家はねえ、かみさんとは別れられても、弟子とは別れられない。長い長い付き合いですからねえ。がんばって、立派な看板になって、師匠に恩返しをしてね・・」

円窓「十人真打というと、ひややかな意見もありますが、十人でも一人でも、要は、そいつがいい噺家か悪い噺家かということなんです。三太楼は、いい噺家です!よく学びよく遊んでいる。遊びは芸の肥やし、というけれど、本当に肥やしにしている人は少ないんです」

馬風「スポーツの秋。大相撲では曙の引退、ドイツベルリンではキューちゃんがマラソンでがんばりました。イチローは本日三打数二安打で、打率三割五分です。一方、わがプロ野球は、ジャイアンツ長嶋勇退というわけで・・(横で権太楼がエヘンとせき払い)本年同様、来年も読売ジャイアンツをよろしくということで、はなはだ簡単ではありますが(「コラコラ」と理事たちがひざ立ちになる)、ええ、ついでに(三太楼の顔を上げさせ)、実にこの、間抜けな顔で。コレは師匠の権太楼譲りで、カボチャというか、唐茄子というか・・。権太楼は前座の時に師匠を亡くして、小さんにひきとられ、言うに言われぬ苦労をした。女房のとも子も体を売って・・(場内大爆笑)。権太楼の爆笑落語も完成しつつあり、今や中堅ナンバーワンです。権太楼の会長就任を祈念いたしまして、はなはだ簡単ではございますが・・。(脇で権太楼が、「おじさん、おじさん、(三太楼を指さし)今日はこいつの」と抗議している)・・そうでした。三太楼には先輩におごるというよいクセがあります。おい、今日は何だ?(三太楼が小声で「ちゃんこ鍋を・・」)うんうん。それから、若い女のファンが来たら、先輩たちにまわすように。といっても、扇橋は上野広小路『ドリーム』の女と手を切り、今は島倉ちーちゃん一筋。権太楼は元日活の朝比奈順子と・・」

権太楼「何でこういうとこで、そんなこというの!」

円菊「えーーーーーー(権太楼の名前を忘れて、肩をたたいている)」

円歌「それじゃ木久蔵とおんなじだよ」

円菊「えーーーーーーーーー」

円歌「電話かけてんじゃねえ!」

権太楼「ええ、我が読売ジャイアンツは(ぎゃはははと場内爆笑)。三太楼が、やっと真打になりました。やっとの中に二年という月日があったんです」

最後は、三本締め。馬風が出しゃばって音頭をとろうとするが、土壇場で円歌が「いよーっ」と音頭をとってしまう。情けない顔の馬風。披露目の間に、一度は見ておきたい「お約束」である。毎回コレだと、いやんなっちゃうけどね。

さて、後半。円菊の「まんこわ」、ボディアクションがこころもち大きい。

「四つ足で一番うまいのは、ウサギ。歌にもあるし。(場内に笑いが広がり)先に言わないように。あえて挑戦しますが、う~さ~ぎ~お~いし」

ひざの小雪は、駿菊トリの時とネタを替え、皿回しから傘の曲芸へ。あれあれ、客席参加、小雪の傘にマリを投げる役に、Kじいさんが名乗りをあげている。

さてさて、いよいよ三太楼だ。メクリをひっくり返すのは、小たかの役目だったが、トリのときだけ、三太楼の弟弟子、ごん白が出てきた。

「いよっ、ごんぱく!」

いいタイミングで声がかかり、ごん白が照れながらぴょこんと頭を下げた。

てんこもりの拍手の中、主役・三太楼の登場である。

「一年分の拍手をいただいたような・・。こないだ手相見てもらったら、『今がピーク』だって(爆笑)。とにかく、『東京ホテトル音頭』に負けないようにやんなきゃ。しかし、まさか披露目でやるとは・・。このごろ、師匠の権太楼がメールを始めましてね。師匠から家に電話がかかってきて『今メール送った。パソコンの前に座れ!』っていうんです。そいでね、『読んで見ろ、どうだ?そうか、それでいい。それをメールにしてオレに送れ』って。これ、実話なんすからー」

「寝床」の旦那は、いいひとだが、なにかが切れると過激であやしいやつになる。こういう人物造形は、三太楼にぴったりなのだ。

「(旦那に「お前はどこが悪いんだ」と迫られ)おれって、下手だなあ。どーして自分のことになると、考えられないのかなあ」と嘆く繁蔵。これも、三太楼向きの人物だ。

この旦那と繁蔵中心に、前半部分をじっくり演じる。後半は、時間の関係もあるのか、わりにさらりとやった。バランスは悪いが、笑いどころが多く、しっかり三太楼の型になっているのが頼もしい。まだまだ伸びる。そう思わせるものが、三太楼の高座にあるのだ。

終演後は、仲間四人で仲通りの中華屋へ入り、いろんな餃子をとって、わいわいいいながら食べた。最後にちょっとご飯ものをという段になって、みんなが「やきそば」とかいってるのに、ひとりH田氏だけが「マーボー豆腐とチャーハンとラーメンのセット」を注文した。H田氏の食欲には、三太楼以上の果てしない可能性があると思った。

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九月三十日(日)

<権太楼朝のおさらい会>(池袋演芸場)

ごん白:真田小僧

権太楼:お菊の皿

さん光:締め込み

権太楼:提灯屋

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今日は、池袋と上野の披露目のはしごを決行しよう。いつになく意気込んで、開演のかなり前に演芸場へ行ったが、すでに長蛇の列が・・。意気込んでいるのは僕だけではないのだった。

権太楼は昨夜の鈴本で鼻声の「代書屋」を聴いたばかり。昨日の今日で大丈夫かとおい持ったが、でてきた感じでは、とても大丈夫とは思えない。一席目は「お菊の皿」。この時期になぜ夏のネタ?稽古や虫干しにしたって、実際に定席にかけられるのは次の夏なのに。いつものようなグイグイ押してくる迫力はないが、本人が高座で言ってるほどには出来は悪くない。でも、さすがに一席やって疲れたようで、いつものような続けて二席ではなく、弟子のさん光を間に挟む形になった。

「(今回の披露目)さん光は実によくやっている。兄弟子の三太楼のためとはいえ、あれほど熱心にできるものではない。アタシが真打になったとき、兄弟子の小里んさんが、本当によく番頭をやってくれた。そん時を思い出しました」と言って、さん光に高座を譲った。

「いやあ・・・。これから何をしゃべろうか、と考えてるときに、いきなり、あんなこと言われると、困りますね。胸が詰まって・・・、しゃべれなくなる」

権太楼と三太楼、三太楼とさん光。いい一門だなあと、思わず涙腺がゆるんだ。最近はてんで意気地がないや。

権太楼のもう一席「提灯屋」は、いまひとつかな。そこそこの出来に仕上げていたが、好調時の権太楼なら、こんなもんではあるまい。

遅い昼飯は、西池袋の「ここのつ」で、重ねもり。空模様が心配なので、寄り道せずに上野に向かうことにした。

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九月三十日(日)

<鈴本・夜席>三遊亭白鳥昇進披露興行

あろー

三之助

美智:マジック

花緑(喬太郎代演):宮戸川

南喬(伯楽代演):おしくら

円丈:新・寿限無

二楽:紙切り

扇橋:二人旅

こん平:漫談

円窓:権兵衛狸

 仲入

口上:こん平・扇橋・円窓・白鳥・円丈・馬風・小三治

のいるこいる:漫才

権太楼:代書屋

小三治:道灌

馬風:漫談

小雪:太神楽

主任=白鳥:地下鉄親子

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広小路についたら、雨足が強まっている。今、三時過ぎか。いくら何でも並ぶには早すぎるよねと、通り越しに鈴本を見たら、それでも傘が三つ、四つ。いやはや、みんな頑張るなあ。

雨宿りがてら入ったアブアブ五階の「ユニクロ」で、秋冬用のコットンジャケットと、黒っぽいシャツを衝動買い。まだ時間があるからと、亀井堂の上の「カフェ・ラ・ミル」に入った。案内された席が窓側で、向かいの鈴本がよく見える。これはいいや。行列が長くなりはじめたら、並ぼうっと。ケーキなどを食べて和んでいたら、四時半ごろから傘の数が増え始めた。ユニクロの袋を持って、あわてて移動。雨はすっかり本降りになった。

今夜は、三遊亭新潟改め、三遊亭白鳥の披露目。最も格式のあるといわれる鈴本の高座に、異端なのか正当なのか、稚拙なのか異能なのか、天才なのか天災なのか、なんだかわからん白鳥が初めてトリをとるのである。寄席を楽しむというより、イベントに参加するというような気持ちといおうか。わくわくするなあ。

白鳥の師匠・円丈が「新寿限無」を出してきた。懐かしい円丈初期の新作である。赤ん坊におめでたくて長生きするような名前をつけてもらおうと、お寺に行ったら、和尚さんが死んでいた!仕方がないので、町内の偉い人をと探し当てたのが、生物分子学の先生だったーーー。

「わーん、おばちゃんとこの、酸素酸素クローンの擦り切れ、細胞壁原形質膜細胞分裂減数分裂、食う寝るところは2DK、窒素リン酸カリ肥料、人間アセトアルデヒド、アミノ酸、リボ核酸、龍カク散、DNAのRNAのヌクレオチドのヘモグロビンのヘモ助が、あたいの頭をぶった~」

だいぶヘンだが、「寿限無」は「寿限無」。この噺の笑いどころはただひとつ、長い名前の繰り返しのだが、円丈版では、もう一つお笑いポイントが増えた。あんまりヘンな名前なので、家族が覚えられないのだ。

「するってえと何かい?うちの炭素炭素」

「お前さん違うよ、酸素酸素」

「えええ、フッ素フッ素」」

「七年住んでて、ばあさん何にも覚えてねえ!」

昔は、「細胞分裂減数分裂」の前に「協会分裂」ってのがあった。当時は、落語協会分裂の数年後、まだ種々のわだかまりが残っている時に、当事者の一人・円丈がこういうネタを作るってのが、粋ってものじゃないだろうか。

 仲入休憩の時に、また「入れ歯の忘れ物が」のアナウンスがあった。本日、入れ歯を預かっているのは理事のこん平だそうな。

 チョーンと柝がなって、というのは決まり文句だが、さすがに使いすぎたな。五十年こんなこと言ってるとあきちゃって。なにかいいもの、ありませんかね(BY春風亭柳昇)。

 おおっ、今日の口上も七人だぜ。

 扇橋「新潟改め白鳥。師匠の円丈さんの円も丈もつかないという」

円窓「今回の十人の中でも、この人のセンスは、今までの噺家にないものがあります」

 小三治「亡くなった三遊亭円生師匠は正統の中の正統、なんとも素晴らしい噺家でした。師匠というのは、弟子を育てるためのコーチでもなければ、先生でもありません。私にとって、師匠の小さんは自分のカガミでした。ところが、円生の弟子にはロクなものがいない。弟子の方には手が回らなかったみたい・・。円丈さんも直系の弟子ですよ。それから川柳も円生の弟子。円窓はこんなやつだし、円楽にいたっては救いようがない。三遊亭の系譜を保っていくのは、この白鳥だけ。ところが白鳥の落語は、円生とは対極の位置にあるもので、これが世の流れと思って諦めています。白鳥が新潟の名前で前座だったころは、ヘンな奴だなあと思ってましたが、ズーッとヘン。ひょっとすると白鳥は今が一番いいときかもしれない。不満なのは、この男、真打になると決まったときに金髪を直した。改心したんですかね。アタシは、この男にはマトモになって欲しくない!」 

白鳥の可能性(?)を肌で感じながらも、どう表現していいか、どう期待していいかわからない。幹部連中のとまどいぶりが現れていて、近来まれにみる、興味深い口上になった。

 権太楼は連日「代書」。相変わらず調子は悪そうだが、目をつぶっても出来る十八番ネタ、噺が独り歩きしているのだろう。すでに本人とは関係なく面白い。

 小三治は登場するなり、後ろ幕を眺めて立ち尽くしている。全面の青は宇宙を現しているのだろう。満天の星空に白鳥座がきらめいている。色といい、デザインといい、白鳥の芸風に劣るとも勝らない異端の後ろ幕だ。

しばらくして自分を取り戻したか、座布団に座るや、マクラなしで「道灌」へ。

「ご隠居さん、書画骨董に興味ありますか? おや、なんか絵が掛かってますね。白鳥の絵ですか、これは?」

「これからは白鳥の時代だよ」

「というわけで、白鳥をよろしくお願いします」

あらら、いきなり終わっちゃった。なるほど、こういう手もありか。

 さあ、落語史上に輝くかどうかは後年の評価に任せるとして、イベントはクライマックス。照明が落ち、高座にスポットライトが当たる。と、なんだあ、後ろ幕の真中がジッパーのように上下に開き、中から白鳥が出てきたのだ!暴挙か快挙か、拍手が鳴り止まらない。

いつものピカチュー付きではなく、落ち着いた着物姿。そういえは、円丈もワッペンなしの黒紋付だった。

「国の母にね、今度真打になって、白鳥という名前になるんだと言ったんです。そしたら、近所の人に『私が白鳥の産みの親でございます』って挨拶回り。飼育係じゃないんですから」

ネタは、地下鉄の工事現場で働く母親と、いじめられっ子のものがたり。もう、危ない言葉がビシバシ飛び交って、言葉を商売にしているアタシとしては、とても詳細は書けません。客席放浪記でもなんでも、よその優秀なHPがありますから、そっちで見てね。とにかく、内容的にはいろいろあるけれど、あっぱれ堂々の高座ぶり。異能真打の誕生にふさわしい、胸躍る時間だった。

外は、しのつくような雨。白鳥の真打を祝って、天は、泣いているのか?

 

つづく

 


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