東京寄席さんぽ5月下席

 二十一日、池袋で新作の会を見た。「春の新作をどり」の「を」がカワイイじゃん。

 東京の若手新作派がずらり並んで、新作中興の祖(?)である三遊亭円丈を迎え撃つーー。

会の狙いを聞いたら、この間見た某落語会、いやこの際ハッキリ言っちゃおう、紀伊国屋ホー

ルの「寄席山藤亭」を思い出してしまった。

 東京の若手精鋭がずらりならんで、上方から東上の(東上線ぢゃないよ)桂文珍を迎え撃つ

ーー。ね、なんか近い物があるでしょー。なかなかそそられる企画なので、「山藤亭」には大

いに期待していたのだけれど、実際の内容は「五月中席」で書いたとおり、「精鋭」たちが安

全パイばかり出しきてて、ちーっとも上方の爆笑王を迎え撃ってくれず、心の中に不発弾を抱

えて帰るはめになったのは僕だけではないはずだ。そうでしょょ(って、だれに言ってるんだ

か)。

 で、今日の「新作をどり」。昇太、喬太郎とお出演者もかぶっているし、さてさてどんなん

かなー、と恐る恐るの見物になった。

     ● ★ ■

 <春の新作をどり>

 5・21(月) 東京芸術劇場小ホール

 

 昇太:前説

 新潟:ある愛の詩

 喬太郎:彫師マリリン

 昇太:吉田さんちのソファー

  仲入

 彦いち:ある芸人の記録

 円丈:アンタの聖家族

     ● ★ ■

 冒頭、帽子好きでカツゼツがかわいらしい小さな師匠の解説のような前説によると、この

「新作をどり」は、「落語ジャンクション」に代表される新作系のとんがった落語会でやった

アレヤコレヤの中から、「収穫」と思えるネタを並べてやってみましょう、というのが狙いら

しい。K文社あたりがよくやる「年間ベストミステリー2000」なんてのの落語版、と考え

ればいいのかな。ちょっと違うような気もするが。んで、二回目に当たる今回は、スペシャル

ゲストに、ベストCD作りに立ち上がるなど、最近久々に動きだした新作王・円丈を呼んじゃ

って、お互い刺激し会おうじゃんということらしい。ふうん。やっぱし山藤亭に近い感じ。た

だ、「山藤亭」では迎え撃つ標的が、気配りも世渡りも上手そうな文珍だったが、「新作をど

り」の方は、自他ともに認めるネクラ・気分屋で「普段がウツ、暗い時はウツウツ」という円

丈である。この違いは大きいのではないか。というのは、迎撃側の若手の芸をどう感じ、どう

受け止めたのか、というアタリを、文珍のニコニコ顔からは判断しにくいが、円丈の顔色から

なら、僕らシロートの客でも推測可能なのではなかろうか。ううう、今日は最初から懐疑的に

なってるワタシ。

 さて、一番手は新潟である。ビンボーそうな若手新作系の会(ごめんよ〜)を続けてみてい

ると、新潟をサラで聴くというのは、けっこう贅沢な気がするのだが、考えてみれば新潟クン

は二ツ目なんだから、定席での定位置は前座の次なんだよなー。

 ネタは最近よくかけている「ある愛の詩」だ。これって、さえない演劇青年に追っかけファ

ンができて喜んだのはいいが、この女がとんでもないストーカーで、アパートの部屋に入れる

入れない、手作りのオデンを食う食わないですったもんだしたあげくに、騒いだ末におぞまし

い事件が発生するーーてな噺だったなあと、瞬時にストーリーが思い浮かぶ僕って、やなオヤ

ジーと思う間もなく、あれれれれ、なんか噺が違うぞー。主人公は演劇野郎じゃなくって、ヘ

タクソな落語で「花緑師匠」にバカにされてる噺家だし、ファンの女の子に声を掛けられるの

が池袋演芸場の前。違う噺かと思ったが、後の展開は同じなのだ。いつの間に噺家バージョン

が出来たんだろうと首をかしげたが、演芸ファンには「落語家版」の方が噺に入りやすい。新

作の会だけでなく、フツーの寄席で演じることを考えても、この方が正解ではないか。真打昇

進間近の新潟(三遊亭白鳥になるんだって?)、準備万端怠りなしというところだろうか。

 喬太郎は、マクラでハタと考え込んでしまった。

 「太神楽の小雪ちゃんて、いるでしょ。この間、池袋で師匠のさん喬とか、お客さんとか、

一門の連中と飲んだ時に、花緑さんのことどう思う?って聞いたら、カンペキな人、自由が丘

に住んでるし、なんて言うんですよ。何いってんだよ、自由が丘ったって、駅前でブタバラ肉

なんか買ってるんだぜ。いえ、花緑さんはそんなことしません、買うとしても高級輸入食材専

門店ですよって。ね?ヘンでしょー。で、僕のことはどう?ってったら、ダンディー(ここで

爆笑)。なんで笑うんですか」

 これって、僕が「五月中席」で書いた、この前の池袋の打ち上げのハナシ、そのままじゃな

いか。少しぐらいヒネリを入れるとか、考えないもんかなあ。ウソが嫌いなのか、はたまた、

ただ思いつきでしゃべっているだけなのだろうか。

 ネタの「彫師マリリン」は、けっこう前の作品のはずだが、これもディテールはかなり変わ

っているみたい。彫師になっても前職のキャバクラのねーちゃんの雰囲気が抜けない主人公も

楽しいが、それに振り回されるつつ、ちょっぴりうれしそうな彫師の師匠がほのぼのといい味

を出している。発想やギャグのぶっとび具合は、今のところ新潟の方が上のようだが、キャラ

クターの造型に関しては、喬太郎が群を抜いている。

 昇太の噺は初めて聞いた。「ジャンクション」で初演したのらしいが、売り物の爆笑篇では

なく、どちらかといえば「人生が二度あれば」風の、しみじみ人生モノだった。会社をリスト

ラされた(だったかな?)吉田さんが、ふと通り掛かったゴミ置き場に、まだ使えるソファー

やリビングセットが捨てられていた。冷蔵庫を開けると、なんとエビスが入っている!ゴキゲ

ンでビールを飲んでいると、「ご一緒していいですか?」と鈴木京香(!!!)がやってきた

ーー。落語というより、独り芝居に近いオトナのファンタジー。ストーカーと女彫物師という

ハチャメチャ新作にわいていた客席がシーンと静まり返って、昇太の優しい語りに耳をすまし

ていた。

 仲入後の彦いちの高座は、この日一番の聴きものだった。体の周りに無数の豆電球をつけて

「電気踊り」を見せる色物芸人の心意気を、ストレート一本、直球勝負で語り込んで来る。ず

いぶん荒っぽい展開なのだが、鬼気迫る彦いちのパワーで最後まで押し切った。最後に照明を

暗くして、本当に「電気踊り」を見せてくれたが、何の踊りなのだが、中途半端なパフォーマ

ンスになってしまったのが、とっても惜しい。新作落語ではあるが、作品世界を考えれば、こ

こはきっちり「やっこさん」か「かっぽれ」で決めてほしかった。でも、いいよ、彦いち。男

だなあ。

 さてさて、力の入った若手中堅の噺を、どううけとめたのか。円丈の高座は「あんたの聖家

族」である。去年ぐらいに出来たというから、円丈の最新作といっていいだろう。安全パイで

はなく、出来たてを出して来るところに、円丈の「まだまだゲンエキ〜」という意気込みが感

じられて、うれしくなってくる。・・・・が、この日のネタには留保点を付けざるをえないな。

 みんながみんな「悪いのはあんたのせい」と決めつけた勝手に生きている崩壊家族の物語。

フラダンス狂いの爺さん、「だるい・疲れる・まかせる」の無気力父さん、厚化粧の母さんに

パッパラパー息子と、登場人物のカリカチュアライズーーーでよかったっけ?慣れない単語を

使うとリズムが狂うな。それはさておき、とにかく過激にマンガチックな登場人物たちは、い

かにも円丈作品のソレである。ただ、オハナシ自体に、往年のパワーがないのだ。今日も今日

とて「あんたのせいだ!」ともめる両親に、息子がつきつけた段ボールの箱。中に入っている

のは、彼らがとうに捨てさった「良心のかけら」や「やる気」なのである。

 「なんでこんなのが出て来るんだ」

 「それは、落語だからよ」

 むはははは。いかにも円丈らしくて面白いのだが、さすがにこれで逃げるのは苦しい。バカ

家族のバトルが、後半突然観念的な展開になる、そのバランスがまだ調整しきれておらず、自

分勝手な家族らの「えーかげんパワー」も後半、みるみる失速してしまうのだ。往年の輝きを

取り戻しきれない円丈の今後の展開は・・、と偉そうなことを言うつもりはない。円丈作品に

は昔から当たり外れがあった。今日のは外れに近いが、明日はアタリに出食わすかもしれない。

「これからは彦いちくんの時代」なんて収まっていないで、今後も玉石混交の新作群をしこし

こ作り続けていってほしい。その中から、きっといつか、とんでもない新作が生まれるはずだ

と、僕は確信している。ほんとだよ。

 帰りがけ、地上に出るエスカレーターのところで昇太とばったり。

 「今日の噺、面白いですねえ」

 「いやあ、前の二人がああいうネタですからね、その後で吉田さんならウケるかなって。キ

タナイ手を使ってしまいました、はははは」

 「それじゃ、お疲れさまでした」と、西口公演を横切って駅に向かおうとしたら、別れたは

ずの昇太が横に居る。

 「打ち上げ、あるんですよ。いかないんですか?」

 「はあ、じゃ、いきます」

 体の具合もあるので、あんまり打ち上げには参加しないのだが、主賓(?)に直接誘われて

は断れないよねー、というわけですぐ横のライオンへ。演者、客が入り交じっての和やかな酒

宴である。酒の飲めない僕は、しかたがないから、本日の出演者たちを相手に落語論を戦わせ

てみるか。

 「喬太郎さん、さっきの小雪さんのハナシ、こないだのまんまだねー」

 「あ、ながいさん、そういえば、あん時いたんだよねー。ははは」

 「新潟さんのネタって、演劇青年が主人公だったよねー」

 「そうなんですよー。でも、噺家でやった方がわかりやすいかなーって、変えてみたの。あ

れならフツーの寄席でできるでしょ」

 「やっぱしー」

 と、あんまし中身のない落語論(?)を戦わせながら、「よるーの、いけぇぶぅくろー」

(ここ、青江美奈調のセクシュアル・ハスキーボイスで)は更けていくのであった。

    ● ★ ■

 池袋の後は、心ならずもしばらく落語から遠ざかることになった。火曜日は歌舞伎座で歌舞

伎見物。昼の部の三之助による「源氏物語」が大入りだが、出来る男は夜の部で団菊をみるん

だもんねーって、ホントは「源氏」のチケットが手に入らなかったからだってりするかどうか

はノーコメントだ。文章乱れまくりだなあ。「合邦」の菊五郎の邪恋、「英執着獅子」は雀右

衛門の可憐、「伊勢音頭」の団十郎は過激で、「関三奴」の三津五郎は小さかった。

 次の水曜日は、文楽公演だ。「中席」でカーテンコール運動をやったのは、夜の部の「曽根

崎心中」だが、今日は昼の部の「一谷」である。「曽根崎」は玉男・簑助の人間国宝コンビば

かりに目が行き、文楽の要である床(大夫と三味線のことね)を楽しめなかった。今回は、し

っかり義太夫を味わうぞーと出掛けたのだ。

 「一谷」の見どころは、なんといっても平敦盛を討ち取った熊谷直実の苦悩を描く「熊谷陣

屋」なのであるが、僕が密かに楽しみにしていたのは「脇ヶ浜宝引の段」なのですよ。文楽に

は「チャリ場」といって、笑いを全面に打ち出した場面があって、「宝引」はそのチャリ場の

代表格なのである。ただ、通し公演だと真ん中あたりの場面なので、忙しい時は舞台に間に合

わず、間に合った時は寝てしまうというテイタラクで、なかなかじっくり楽しめない。今日は

睡眠もばっちり、ちゃんときくぞー。

 お目当ての「宝引」、床は、義太夫・豊竹咲太夫、三味線・鶴沢清介という中堅実力派だっ

た。

 見知らぬ若者に頼まれて作った五輪の石塔。石屋の弥陀六(みだろく)が出来栄えを眺めて

いると、付近の漁師たちがやってきて、世間話になる。

 「この間大坂からやくわんといふ物持ってきて見せたら、こりゃ兜じゃ、といわはった。こ

の手見るような物はおとがいへ引掛けのぢやて。また口見るやうな物は兜の角ぢやて、片いっ

ぽないのは昼寝の時に勝手がよいやうにしてあるのぢやて。なんてやくわんといいます、とい

うたら、軍場(いくさば)で敵が矢当てると、くわんと鳴るて、それで矢くわんぢや、といわ

しゃった」

 これって、落語の「やかん」そのままだよね。「一谷」の初演は一七五一年だから、どう考

えても落語より古い。「やかん」のルーツここにあり、である。

 「宝引」には、そのほかにも楽しいやり取りがあるが、いかにも大阪の芸能らしく、コッテ

コテという感じなのが、うれしい。

 「死なしゃった敦盛さまがあの笛の主ならば、こなたに石塔あつらえたお若衆とひとつぢや

ないかいの」

 「いかにも」

 「サ死んだ人が来そうなものぢやないぞや」

 「いかにも」

 (中略)

 「いかにもいかにも、とばかりいふて判るかい、蛸はどうぢやい」

 「歯に合わない」

 はははは。これぞオヤジギャグ。

     ● ★ ■

 歌舞伎や文楽にうつつをぬかしているうちに、本業の原稿はたまるし、締め切りは迫るし、

出張のハナシは飛び込んで来るしで、週末は大忙し。マルチメディア面用のDVDソフト評を

書いて、日曜版のデスク作業をして、会社に紙切りの原稿を持ってきてくれた正楽さんと密談

しているうちに週が明け、月曜日の早朝に羽田を出発して、沖縄本島に向かった。「芭蕉布」

という沖縄を代表する愛唱歌のルーツを探る取材で、梅雨の真っただ中の那覇、コザ、名護を

路線バス(沖縄には鉄道がないのだ)を使って行ったり来たり。びっしり雨に降られてようや

く東京に帰ってきたら、もう三十日になっていた。

 「寄席さんぽ」の新作を書こうとしても、だいたい寄席に行ってないし、掲示板では「周回

遅れになっちゃうよー」とせっつかれるしで、えらいこっちゃー。ようやく仕事が一段落した

三十一日、末広亭の余一会に行くことが出来た。さあ、新作サミットだ。

     ● ★ ■

 「<末広亭余一会・三派合同サミット>

 5・31(木)夜の部

 

 左談次:本

 昇太:人生が二度あれば

  仲入

 ポカスカジャン:絵かき歌・ワールドミュージック

 高田文夫・昇太・勢朝:鼎談「彦六賞について」

 ブラック:朝鮮人の恩返し

 正楽:藤娘

 主任=勢朝:お父さんのハンディ&落語息子

     ● ★ ■

 仕事が片付いたとはいえ、雑用はある物で、夜の部のサラから見るつもりが、木戸の前に到

着したのは午後の七時であった。

 気っぷを買おうと、あのパチンコ屋の景品交換所のようなテケツの中をのぞくと、めずらし

いことに北村席亭が金勘定をしている(いつもは杉田支配人だよね)。

 「おや、いらっしゃい。今日は満員だよ。ちょっと中に入らないで待っててね」

 そう言ってる間にも、後から後から客が来るので、席亭とハナシが出来ない。後ろでは「あ

と何人で席がなくなります」なんて相談してたり。年に一度の新作サミット、相変わらずの人

気で、けっこうなことだ。

 客が途切れると、席亭が僕に手紙のコピーを差し出した。差出人は福岡の方の人で、僕の単

行本「新宿末広亭 春夏秋冬定点観測」を点字本にしたい、ついては芸人の名前の読み方を教

えて欲しいと書いてある。そういえば、この間も立川の図書館から「視覚障害者向けの朗読テ

ープを作るので許諾願いたい」という連絡を受けた。ありがたいことなので、何でも協力する

つもりだが、あの「定点観測」を朗読したテープって、どんな感じなのだろう。あんまりばか

ばかしいんで、語り手がおもわず笑っちゃったりして。

 「たいていはうちで答えられるんだけど、文楽関係がわからないんだよ」と席亭がいうので、

「とよだけ・さきほだゆう」「つるざわ・せいしろう」なんて読みを教えていたら、その間に

も席が埋まっていたようで、やっと入場したものの、案内されたのは二階席(開いてる!)の

後ろのはじっこの補助椅子だった。

 「おや、ごくろうさまです」と、隣の人に挨拶された。だれかと思ったら、東京ボーイズの

ウクレレ担当・仲八郎さんだった。

 「昼間出たんですけどねー、夜にポカスカジャンが出るから、見ておこうと思って」

 「さすがに熱心ですねー。他のメンバーは?」

 「ああ、リーダーと六さん?仕事が終わったら、とっとと帰りました」

 なるほど、そうだろうなー。

 高座は、左談次が怪しげな本を読み終わって、いつもの塩月弥栄子著「冠婚葬祭入門」の朗

読に入ったところ。満員には違いないがそれにしてもザワザワと騒がしいぞと、あたりを見回

すと、あーらら、二階席の前半分が中学生の団体である。コイツラらが、ごそごそ、ペチャク

チャ、キャハハハ、ムシャムシャ(最後のは弁当だ)と、気になって気になって。で、一緒に

いる先生や添乗員のにーちゃんは、まーったく注意することもなく、余った弁当の数を数えた

りするのだ。ガキが演芸をみようともしないのは、わかるような気もしないでもないが、許せ

ないのはセンコーの料簡である、とだんだん言葉遣いまで悪くなってきたかんじ〜。

 昇太の「人情噺」の最中も、まるで関係ないところで甲高い笑い声が響く。膝立ちになった

昇太が「コラー!中学生、ちゃんと聞きなさい。先生も注意して」と言っても、オトナもガキ

も自分たちがしかられているのすらわかってない様子なのだ。ぶかぁ〜〜〜〜1!(わかって

ると思うが、ここは志ん五調で)。

 

 仲入休憩の時間になって、中学生が帰ってくれた(サンキュー)ので、二階席の最前列に移

ろうとすると、お茶子のおねえさんが「あのー、二階閉めますので」だって。閉めるこたあな

いだろー(まだ言葉が悪い)と思ったが、ここはオ・ト・ナの対応で、一階の上手側桟敷の後

方に座った。周りを見ると、なんだなんだ、前田隣、ミッキーカーチス、玉置宏、吉川潮、小

朝事務所「春々堂」のにいさん、などなど関係者がごろごろいる。みんな、これから出て来る

ポカスカジャンを見ようというのだ。久々に現れた若手の、ニューウエーブのボーイズ芸に、

注目が集まっているのだ。

 で、注目のポカスカジャン。おなじみの絵かき歌「ドラエモンじゃねえ」から始まって、世

界の音楽、津軽弁のアレと、得意ネタのオンパレード。相変わらずの楽しさだが、寄席の狭い

高座の使い方がまだよくつかんでいないようで、一本のマイクを前に(普段は三本使ってる)

やや、動きにぎこちないものが残ったのは、残念だ。

 次のブラックは、わけあって詳細を書くのはやめにしておく。ポカスカジャンといい、ブラ

ックといい、中学生が帰ったと思ったら、ヤバネタのオンパレードなんだもんなー。面白いけ

ど。

 膝がわりの正楽がいつもの調子で「何かご注文は」というと、すかさず客席から「藤娘!」

の声。

 「あの、フツーの藤娘でいいんですか?モー娘とかじゃなく」

 「はあ、フツーのやつで」

 「いや、前(ブラック)があんなのだったから、フツーでいいのかなーと思って」

 ぎゃははははははは。

 でもって、なんでトリが勢朝かというと、本日の新作サミットは「春風亭勢朝 林家彦六賞

受賞記念公演」だったんですねー。今パンフレット読んでわかったんだけど。

 あ、だからさっき高田文夫・昇太・勢朝の鼎談があったのかあ。彦六のエピソードばっかし

話してたから、気がつかなかったよー。というわけで、本日のメーンだったことが判明した

(もしかしたら知らなかったのは僕だけかも)勢朝は、引き続きウソかマコトか判別できない

彦六のエピソードをしゃべった後、新作二本立ての大サービス。一本目は「子供の犠牲になる

親」、二つ目は「親の犠牲になるこども」という二つのテーマを対比させた話題の高座ってほ

どのこともないか。前席は歌之介のやってる「お父さんのハンディー」、二作目はオリジナル

だろうか、むりやり噺家修業をさせられる息子の噺だった。ウソツキ大魔王・勢朝の面白さは、

僕ら客よりも楽友(楽屋の友達)の方が詳しい。視点のひねくれ加減、見立ての妙と、ただな

らぬセンスを見せるのだが、やや早口で、しかも語尾を飲み込むくせがあるので、セリフが聞

き取りにくい時がある。楽屋で、バックグランドを知ってる連中相手にホラ話をする時は通じ

ても、フツーの寄席でビギナー相手では伝わりにくい芸なのではないか。十数年の年期のある

噺家にいうべきことではないかもしれないが、口調をもう一度きちんとチェックし直せば、飛

躍的に面白くなる人だと思うのだ。

 並びの居酒屋の意気揚々と入っていく曲者出演者たちを横目で見ながら、満月盧でふわふわ

卵を食べた。

 

つづく  


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