寄席さんぽ2002三月中席
春三月。うららかな陽光とはうらはらに、ボクの心には暗雲がたれ込めていた。 本業の取材で大騒動が持ち上がったのだ。ボクはこの十年ばかり、年に数本、夕刊に旅ルポを書いている。今回もその仕事で、○島県への出張準備をしていたのが、一週間前になって、取材ベースにするはずの宿泊施設に確認の電話を入れたら、「すみません、うちで食中毒事件が起こってしまいまして、今日から営業停止になりました」って、おいおいおい! あわてて情報収集をしたが、どう考えても来週早々の取材は無理のようなのだ。せっかくたてた取材スケジュールを破り捨てて、取材のアポを平身低頭でキャンセルした後、さあ、どこに取材に行こう。「瀬戸内海の春」という本来のテーマに沿って探したというか時間もないしまあここらへんにしようというか、混乱のうちに「淡路島」が浮かび上がったのである。いいか悪いか検討している暇はない。準備期間もない。パンフレット類を取り寄せているあいだに出発日になってしまうだろう。ええい、しかたがない。とにかく現場まで行って、出たとこ勝負である。いままで白紙で出た新聞はないのだし、なんとかなるさ、なんとかなるはず、なんとかしてよと腹をくくった。 と、そんなキビシー状況下で、出たこと勝負の出張の数日後に控えて、寄席見物に行く僕は、大人物というかヤケクソというか何とでも言ってくれというかでも行っちゃうんだもんねーというか最近文体荒れてると言うかとにかく「寄席さんぽ三中」の幕開きである。ほんとに文章乱れてるな、こりゃ。 ● ▲ ■ ◆ 三月十三日(水) <国立・昼席> さん坊:牛ほめ きく麿:堀の内 琴星:木村又蔵 団六:へっつい盗人 近藤しげる 五郎:蛸芝居 仲入 喬太郎:肥瓶 栄華:さのさ・壺主任=さん喬:百川 ● ▲ ■ ◆ 本日のサラ口は、さん坊なりー。いつまでも可愛いというか頼りないというかヘナチョコ(だんだん悪くなるな)だなりーと思っていたら、もう立前座なんだもんねなりー。五月に林家はなふぶきが二ツ目に上がると、・・・・・コイツが二ツ目筆頭なりー!だいじょーぶかコロ助、じゃなかった、さん坊。 「牛ほめ」の与太郎は、もーほんとにヘナチョコ。家見舞いの口上のたどたどしさを目の当たりにすると、オヤジさんじゃなくても何とかしてやりたくなるよね。しかし、このヘナヘナ与太郎、芸なんだよな? 続く二ツ目のきく麿も、さん坊と同タイプかな。見た目と違って、口調は軽く、やや舌足らずで頼りないが、これはこれで味になっている。 「そそっかしい人っていあすよねー。おでこに眼鏡乗っけたまま眼鏡探している人とか。そーかと思うと、頭の上にリンゴ乗っけたままリンゴ探している人とか・・・・。(どう受けたらいいのか、とまどっている客席を眺めて)ハイブリッドな笑いなんで、ついてきてくださいねー」 見事にはずして照れくさいのか、すぐに本題に入った。 「お前さん、起きとくれよ~」 一瞬「芝浜」かと思った僕って、疲れているんだろうか? 「お前さん、堀の内のお祖師さまに行くって言ってたろ~」 やっぱし「堀の内」だよな。安心安心。しかし、こういう噺はトントントーンと調子よく運んでほしいぞ。テンポもメリハリもないから、ちっとも笑いがはじけない。 「みなさん、ただいま講談師は六十人。イリオモテヤマネコは七十匹です~」 なんだか今日はスットボケタ人ばかりだ。年齢不詳、経歴不明、脱力系の芸が「今に化ける」と言われ続けて幾星霜の宝井琴星。ずいぶんな言い方だが、僕はこの人、まだこれから化ける可能性ありと見ている。ただ、いつになるかが・・・イマイチはっきりしないのである。面白講談「木村又蔵」。姉川の合戦にはせ参じた田舎武士が、金がないので詐欺まがいで具足一式手に入れるという、たいした噺ではないが、この人がやるとほんわか楽しく、後味もいい。もう一押しなんだけどなあ。 お次は初めてみる上方の露の団六。長身、細身で、顔が小さい。お、なかなかじゃんと思ったら、「それにしても、ヌクイでんな~」。ぎゃー、やっぱりコテコテだ。 「ほいじゃ、小噺をひとつ、おぼえてもらいましょか。おい、向こうから来るの、ぼんさんと違う?」 「そう」 「向こうから来る二人連れ、ぼんさんと違う?」 「そうそう」 「向こうから来る三人連れ、あれ、ぼんさんと違う?」 「(客に向かって)せーの、そうそうそう」 「これ、ぼんさん四百人までやって、どつかれました」 面白いやおまへんか。 近藤しげるをはさんで、団六の師匠、露の五郎の登場だ。、この芝居は毎日、鳴り物入りで「蛸芝居」を演じている。もちりん、本日のお目当てなのだ。 「(近藤しげるが去った方向を眺めながら)ええですなあ。形がええ。イスに座って、げた箱抱えて・・。こっちは、座布団の上にちょこなんと座って、歌も歌わず屁もこかず・・」 オハナシは、一家丸ごと芝居好きという船場のアヤシイ大店で起こる大騒動。旦那が「三番叟」で丁稚をたたき起こすのが幕開きで、仏間の掃除をしながら「お位牌持ってできる芝居は・・、仇討ちや!」、子守を頼まれれば「やや子抱いてする芝居は・・、忠義な中間がわこさま抱いて落ちのびる~」と、何をやっても芝居になる。三味線、太鼓にツケ打ちまで加わって、まーにぎやかなこと。ラストは、台所から逃げ出した蛸がスミを吹いて「だんまり」になるのね。五郎の柔らかな仕草が、華やかさとドタバタを足して二で割った噺の雰囲気と合って、なんだかウキウキした気分になった。 この噺、二十年ぐらい前に、超満員の上野本牧亭「小朝の会」で、小朝の師匠・春風亭柳朝が演じたのを聴いたことがある。ただ思い出しただけなのだが。 仲入をはさんで、喬太郎の教科書通りの「肥瓶」。落語なんてものは、ちゃんとした演者がやれば、本を素読みにしても面白いわけだが、新作の時とは違う、あの訳知り口調がちょっと鼻につくなあ。 「わたくしのモットーとしております、さのさ、都々逸を時簡いっぱい」といいながら、日本橋栄華は「壺坂」をたーっぷり。けっこうな芸だが、ひざ代わりには少々味が濃くないか。 さて、トリのさん喬だ。 「暖かくなって来ましたねー」とかなんとか言いながら、いつも通りのとりとめのないマクラをふる。何をやるのかなあ、昼席だから軽めの滑稽噺かなあ、しかし昼だから軽めになんてことを考える人じゃないよなあ、やりたくなったら長かろうが重かろうかやっちゃうよなあ、しかし時間も押してるしなあ、でも時間なんか気にする人じゃないしなあ。などと、高座同様こっちもとりとめのないことを考えていたら、いきなり「江戸の三大祭りというものがありまして」と足もとをすくわれた。これって、まさか、もしかして、やっぱし、早い話が、 も・も・か・わ? 「こんち申し上げますのは、日本橋の百川という料理屋で・・」 おお、「百川」に巡りあわんと艱難辛苦いかばかり~。さん喬滑稽落語の代表作の一つと名も高い「百川」、この数年待てども待てどもまーーーーーーーーーったく出くわさないので、さん喬に「百川」というネタがあるということを忘れかけていたぜ。いやあ、感無量ですなあ、近藤氏(誰に言ってんだか)。もうこれで今年はさん喬聴かなくていいかも、なんてバカ言ってるうちにも噺は進んでいるのであった。 「うっひゃっ!おらはぁ、ひゃくべっちゃっす!」 そうそう、このセリフっちゃっす。いいなあ、はじけるように明るくって、心地よい江戸弁の啖呵があって、なーんにも中身のない噺を、これだけ楽しく聴かせてくれるんだもんなー。 「お前ねー、何できんとんをハシではさんでから皿を探すのー?(一転声を低くして)ハシをなめるなよー。なめるなら横になめろよー!」 あれあれ、河岸の若い衆が、仲間のドジに文句をいってるくだり、ものすごく調子がいいんだけど、これって、さん喬が弟子のさん角を叱ってる時の口調そのままじゃないのー。 せっかく久しぶりに「百川」に当たったのに、一番鮮明に覚えているのがこんなところってのも、なんだかなあである。ま、そういうもんだよなあ(←どういうもんなんだ)。 帰り道、演芸場の脇を抜けて、大劇場の裏手から半蔵門駅に向かう途中で、「おーい」と追いかけてくる男ありけり。なんだかつい最近会ったこのあるとおぼしき人なり。「ばか、おまえのオヤジだ」というのは、よくあるマクラなり。してその実態は、着替え終わって次の寄席に向かうさん喬なのであったなりー(文章メチャクチャだ、こりゃ)。 「急いでるのー?」 「いやそれほどでも」 「んじゃそこでお茶でも飲んでいこうよ」 一言書き添えて置くが、さん喬御大とは、いつも僕にお茶をごちそうしえくれるほど親密なわけではない。今日茶店に誘われたのは、誰とは言わぬが美女の連れが二人もいたからに違いない。ま、それはともかく、まず確かめておくことがあった。 「師匠、さっきの『百川』の小言、もしかして、さん角に言ってるでしょ」 「あ、わかった?言ってるうちに、だんだん腹が立って来ちゃってさー。オレ、これからずっとさん角でやろうかなー」 やっぱりー。 「こないだの鈴本のトリ、よかったですよー」 「そう。あの芝居、小燕枝さんがよかったよね。オレの方から寄席に『小燕枝さん出して』って頼んだの。だから(後半の落語が)一本多かったでしょ。あの人とか、小里んさん、小はんさん、林蔵さんなんか、もっと使ってほしいよねー」 「しかし、この国立の番組もすごいよねー。栄華さん、前で『壺坂』なんかやられちゃたまんないよね。マジック、喬太郎、壺坂にオレ。なんかバラバラの番組だよねー」 半蔵門駅の角っこの店のカプチーノ、おいしゅうございました。 ● ▲ ■ ◆ 三月十四日(木) <鈴本・夜席> (さん喬:浮世床) 正楽:ねぶた・千鳥ヶ淵の桜・愛子さまのお宮参り・正楽さん 五郎 円蔵 仲入 ゆめじうたじ 白鳥:おばさん自衛隊 一朝:唖の釣り 主任=たい平:紙屑屋 ● ▲ ■ ◆ 翌日、木曜の夜は、たい平トリの鈴本へ行った。ついたとたんに、「半ちゃん、一つ食わねえかって起こしたの、だれだ」。さん喬の「浮世床」が終わった所でありんした。 で、次の出番は正楽で、・・・・・・・・あれ?・・・・・・・・えっ?・・・・・・・うそ?・・・・・・・・メモが見つからない! 僕は普段、寄席見物をするときは、それほど克明なメモはとらない。なんだか恥ずかしいし、書いてるのに忙しくて高座に集中できないともったいないではないか。しかし、まったくメモを取らずでは、「さんぽ」のようなチョー雑文ですら書けるわけがない。しかたがないので、もらったチラシの裏なんかに、いわゆるキーワードのようなものを書き付けておく。何かを書くときは、この走り書きをきっかけに記憶を呼び起こすのだが、このシステムがけっこう機能するのだ。あんまり克明に書くと、書いたことだけしか思い出さないが、ブツ切れ会話とキーワードだけだと、その空白を埋めようとして僕のスカスカの脳細胞が動き出すようなのである。 と、こんなこと書いてつないでいるのだけれど、肝心のメモはまだ見つからない。しかしまあ、三月中席といったら二か月も前のことだよ、いくら僕の脳細胞が空白を埋めるといってもそんな昔のことは忘れたなあカサブランカである。 とにかく、上記の番組表をにらんでと。えーと、えーと、えーと。そうだ、寄席がハネてから「がぜん」というダイニングバー(?)に寄ったんだった。鉄板焼きメインの創作料理という感じの店で、興味をそそるメニューがけっこうあるのだが、でもしかし料理云々を言う前に、この店はうるさすぎる。一組客が入ると、通路といわずカウンターの中といわずゴミ出しの途中といわず、その場にいるだけの従業員が「いらっしゃいませー!」の大合唱。帰るときも大音声、料理を注文しても大声が鳴り響く。ええいヤカマシイ!これじゃ話もできんじゃないかー!・・・・・というのは、寄席とは何にも関係ないよね。で、結局、当夜の番組については、何一つ思い出せません~。 陳謝。 これで終わっては申し訳ないので、寄席定席ではないが、もう一本レポを付け加えて、お詫びの印としたいと思います。ごめんよ~。 ● ▲ ■ ◆ 三月十八日(月) <昇太ムードデラックス>(本多劇場) 北陽:「安兵衛駆けつけ」の後 昇太:松竹梅 仲入 花緑:がまの油 昇太:崇徳院 ● ▲ ■ ◆ 十六日は浅草芸能大賞の表彰式。四年ぐらい前から専門審査員を仰せつかっている僕も、会場に行かねばギャラがもらえ・・あわわ、とにかく表彰式を見届けなければならないので夕方の浅草オレンジ通りへ。会場の浅草公会堂の手前の洋品店のウインドーを鏡代わりにして、持参したニットのネクタイを締める。ま、これでいーでしょ。 今回の浅草芸能大賞は、大賞=市川猿之助、奨励賞=柳家権太楼、新人賞=大和悠河(宝塚)。記念公演で権太楼が演じたのは、もちろん十八番の「代書屋」だ。会場前列に群がるヅカファンと、ゲストの松山おけいちゃん恵子見たさのオバチャマたちまで、しっかりと笑いの渦に巻き込んでいた。 表彰式が終わって、ロビーに出たら、権太楼夫人にばったり。 「あら、ながいさーん、どうも今日は。実はさー、賞金で大型テレビを買おうと思ってるのよ。飲んじゃったらそれで終わりでしょ?こういう賞金は、何か後に残るもんを買わないとねー。あ、そうだ、あたしこんなことしてる場合じゃないのよねー。うちのユータクン(権太楼落語のマクラにも登場する、ご長男である)が、大阪芸大に入学してさー、 明日あっちに行っちゃうのよー。だから荷造りしなくちゃ。三太楼と太助が下宿まで車でつれてってくれるんだけど、あの連中はあっちで遊びたいらしいしねー」 早く帰らなきゃといってるのに、話はなかなか終わらないー。いずれにして、ン十万円の賞金は大型テレビに形を変えて、権太楼家に残ることになったのである。まずは、めでたしめでたし? 久しぶりの下北沢。ま、落語会の時しか来ないんだから、久しぶりになるのは致し方ないか。 まんなかぐらいの席に陣取って、左隣をみたらビックリ仰天。奥の方から、作家の○川潮センセイ、お笑いプロデューサーの○村○理さん、ソニーレコードの○須プロデューサーと来て、僕である。きゃー、これじゃ居眠りもできやしない。 さて、昇太の会は、本人の前説から始まるのであった。 「えー、こないだのサザンシアターの会では『富久』なんかやっちゃって、すっかりその気になってしまいました。今日は春のバカばなしを二本。こないだからのお上手ムードをバカばなしでぶっ飛ばします!ゲストは花粉症二人。楽屋で大きなマスクつけて『仮面ライダーみたいでしょ?』なんてやってます」 花粉症その一は誰か?考えるまでもない、昇太の会にいつも出てくるあの男、神田北陽に決まっているのだ。 「ハイ、いつも出てますっ!こないだも昇太兄さんと一緒にやって、その後のアンケートに『いつも出てくる講談のやつは、最後までやんないからクビにして』というのがありました。クビとか言われるのはいいけれど、そういうアンケートを事務所が隠してたというのが悔しい!そう思ってたのかー、なんて考えちゃうじゃないですか。今日は最後までやりますよ。最後までやって、面白いかどうかはわかりませんが、アタシもお客さんも」 てなことをいいながら、いつもの「安兵衛駆けつけ」をやって、いつものサゲへ。 「これからが面白いんだけど・・・って、今日はこの後をやります。(中略、この後本当に高田馬場に駆けつけた安兵衛の立ち回りを演じて)ね、面白くないでしょ?」 うーん。コメントは差し控えておこう。 昇太の一席目「松竹梅」が、なんだかあんまし弾まない。聴いてる僕自身が疲れているせいだろうか。覚えているのは、竹さんが謡曲の感じでうなる「何じゃにな~られた~」が妙にうまかったことぐらいっす。 仲入時に、隣の席の○須プロデューサーが、「六、七、八月と、志ん朝さんのCDを出しますよ」と教えてくれた。 若い時の三百人劇場「志ん朝の会」のと、大阪録音と、マリオンの朝日名人会のが少し。「茶金」「おかめ団子」「豊志賀」(!)「へっつい幽霊」「酢豆腐」(うれしー)「三枚起請」「もう半分」なんかが入っているという。 「まだ録音したのもあるんだけど、サゲを間違えちゃってて出せないのもあるんですよ。あと、よく演ってるネタでいうと、『幾代餅』とか『風呂敷』『かわり目』なんかの音がないんだよねー」 このあと話題は「名人でも間違いがある」という話になったが、さすがにレコードプロデューサー、じつによくいろんな音源を聴いている。 「志ん生さんの『井戸の茶碗』のCDで、すごいのがあります。『千代田ト斎が売トをやってる』と説明した後、ずーっと『千代田売ト』って言ってるの。あの林家(彦六の正蔵)だって、清水焼のことをシミズヤキって言ってるCDがあるんですよ」 ははははは、千代田売ト。それじゃ占い会社法人だよ。 てな話をしているうちに、あっという間に仲入が終わり、花粉症第二号、柳家花緑の登場である。 マクラは、ただいまラブラブの林家きく姫と「ドラえもん」の映画を見に行ってウルウルしたというオハナシ。 「いやこれが本当にいい話なんです。『子別れ』の三倍は泣ける。今まで『子別れ』で泣いてた私っていったいなんだったんだろうと思いましたよ。しかし、渋東タワーは六百人入るのに、封切り三日目で客が十人。ドラえもんは危ない!」 本日のネタは「がまの油」。勢いはあるが、がまの油売りの口上がちょっと言語不明りょうかな?となりの○須氏に意見を求めると、キビシー答が返ってきた。 「口上がなってませんね。早口過ぎるから、かんじゃってる。あんなに急ぐことはありません。後半のよっぱらった場面との対比があるから、始めの口上はしっかりやんなくちゃ」 花緑のCDを出してる人の苦言だけに、考えさせられた。うーむ(考えてるふり)。 花粉症にかかっていない昇太の二席目は「崇徳院」。ボクは依然として疲れているが、これはよかった。全体の構成はほんとにテキスト通り。オーソドックスな展開の中に、一か所だけ昇太らしい工夫があった。若旦那の恋の仲立ちをする熊さんが、上野の清水堂の茶店の女に岡ぼれしているのである。この女が、どうもヘンテコなヤツらしいのだが、熊さんは一途に思いつめている。 「あの女は、オレが冗談なんか言うと、グフッていうんだ」 「そんなバカな女はどうでもいいよ」 「(いきなり激高して)バカっていうなー!オレは好きなんだー!」 こんなやりとりが何度も繰り返され、しまいには熊さん、女房の前で「バカって言うなー」をやってしまい、思い切り殴られてしまうのである。ああ、ヘンな「崇徳院」。 最近、独演会などで、噺の後に何かひとこと付け足すのが流行っているのだろうか? 「ええ、北陽が自分の会のキップを売るっていうんですよ。 『それなら何か特典つけろよ』 『ありますよ、当然じゃないですか!』 『なに付けるんだよ』 『オレの頭(今日はつるつるスキンヘッド状態)をなでることが出来る!』 ということでー、ついでに末広亭で柳昇一門会があるんですよ。余一会。で、このキップは売った分が自分のものになるという恐ろしいシステムなんですね。フツーに木戸で買うと、寄席のものになっちゃうの。ま、どう言ってもみみっちいハナシなんですが、ボクを通して買って!なんか悔しいから」 「今日は、楽屋に映画見に行った(花緑の)彼女が来てます。で、その彼女に『この前のサザンシアターでさあ、花緑はサラブレッドだけど、柳家に林家の血が混じった場合もサラブレッドっていうのかなーって話をしたんだよー』って言ったの。そしたら『そーですねえ、じゃ何ブレッドですか?』だって。だいじょーぶか、と思いましたね」 だいじょーぶかな、ほんとに。 メモをなくしてボロボロの「三中」レポ、なんとかゴールにたどり着いたか。明日からは、でたとこ勝負の淡路島出張だ。鳴門のうず潮に、淡路人形浄瑠璃に、桜鯛のしゃぶしゃぶ。これで原稿書かなきゃ申し分ないのだが、非情な締め切りがひしひしと迫っているのであった。ちゃんとメモ帳もっていこうっと。
つづく
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