2003年11月9日 日曜日


今朝の写真
SONY DSC-F707
撮影枚数26枚
一の酉
CANON EOS-1 Ds,CANON ZOOM 17-35 F2.8
撮影枚数202枚

生活と年中行事

 あの暖かさはいったい何だったのでし
ょう。今朝は一転して薄暗くて寒い朝に
なってしまいました。昨日は暖かさに誘
われたのか、お酉さまが行われている影
響なのか、浅草周辺はこの秋一番の人出
になったようです。
 鷲(おおとり)神社の正式な発表は無
いのですが、新聞によるとお参りに訪れ
た人の数は30万人と発表されていまし
た。それにしても、こんな暖かいお酉さ
まってのは久しぶりでしたよ。
 “春をまつことのはじめや酉の市”
 江戸時代中期の俳人宝井其角の句です
。当時のお酉様は、旧暦の十一月の酉の
日におこなわれた行事ですから、今より
ももっと寒い時期のことになりますね。
木枯らしが吹きはじめるようになってお
酉さまの声を聞くと、あとは煤払いや歳
の市。掛け買いの支払いやら取り立てや
ら、どん詰まりの大晦日に向かって慌た
だしい日々がひかえていることをすべて
感じとれる名句です。季節の移り変わり
に敏感で、生活と年中行事とが深く結び
ついていた江戸時代の人びとにとって、
其角の句は、よほど身近に感じられるも
のだったにちがいありません。
 普段は閑散としてる鷲神社。建物も境
内も無味乾燥なコンクリートで固められ
、樹木も無く殺伐としています。酉の市
を知らない人が訪れても、まさかここが
商売繁盛の神さまであるという風情など
全く無い神社なのですが、たとえどんな
に混雑しようと、ここはお酉様のときに
来てこそ、その雑踏・狂騒のうちに一種
の風情を感じるように演出されているか
のような場所なのでしょう。
 樋口一葉や岡本綺堂などの小説にも登
場するこの神社。
 “大勢の人に押されて、揉まれて、踏
まれて蹴られて、帽子は飛ぶ、下駄は失
くなる、着物は裂ける、羽織は脱げる。
おまけに紙入は掏られる、溝へ落ちる”
 かっての酉の市の賑わいも、今となっ
ては警察の指示で入場制限がかけられ、
御利益より安全第一の酉の市に変わって
しまいました。明治期の小説では、当た
り前のこと。説明無くても理解できる生
活と年中行事の結びつきも、今となって
は過去の文化に対する注釈無しでは理解
出来なくなってしまったようです。
 近年は人の心も世知辛くなったのか、
風流を楽しむ余裕が無くなってしまった
のか、生活と年中行事の結びつきがどん
どん離れていってしまうようです。
 選挙戦も終わり静かになった浅草です
が、今朝も早くから大勢の観光客がやっ
てきました。境内で展開されている「奥
山風景」もあと一週間で終わってしまい
まうので、最後の駆け込み見物なのでし
ょう。でも、10時を過ぎなければお店
は開きません。扉を閉ざし、ベニヤの壁
だけの奥山の路地をぞろぞろ歩いている
観光客の背後から、“みなさん、そろそ
ろ集合時間ですよ”、非情なバスガイド
の声だけが響いていました。
 せっかくこのような素晴らしい場所に
、お金をかけて造った江戸時代の雰囲気
を彷彿させる奥山。ここに出展している
老舗といわれるお店や工芸家たちは、売
ることよりも、見せることを目的に集ま
ったと聞いております。せめてもう少し
早めの開店にしても良かったのではない
でしょうかね。こんなところにも、生活
と年中行事の結びつきの無さが見え隠れ
しているのかも。