東京寄席さんぽ十二月上席

 十二月は忙しい、なんていうのは、どんな仕事でも同じだろう。マスコミの端くれにひっかかっている僕の仕事がなぜ忙しいか。理由は簡単である。

 年末進行。

 これが唯一無二の、忙しさの元凶なのである。

 年末年始は、だれだって人並みに休みを取りたい。しかし、休むためには、その分の仕事を前倒しにしなければならない。ところが、正月の新聞はいつもより分量が多いときている。も一つ言えば、僕はライター兼デスクなので、ライターだけ、デスクだけの人よりもちょびっと雑用が多いのである。ということはですねー、どういうことになるかというとー、えーえーと……。ま、計算は難しいので実感で言わせてもらうと、普段の仕事プラス前倒しプラス正月上乗せ分ということで、十二月は平均して通常の1・7倍ぐらいの仕事をこなすことになるのである。

 ところが、日々のニュースを載せるのが新聞の宿命である。全部が全部、前倒しで片付くというわけではないのだ。突発的なニュース(僕ら文化部の場合は、著名な文化人、芸能人の死亡なんてのもある)は、予想して前もって、というわけにはいかないので、何かあると、アリさん記者が冬に備えてせっせと蓄えていた原稿なんて、パーーーーーーッと吹き飛んでしまうのだった。そういえば、ぼくが心臓疾患で倒れた二年前の冬は、デスクになりたてだったこともあって、慣れない二刀流年末進行がかなりこたえていた上、さらに「新宿末広亭・定点観測」の真っ最中であり、さらにそれとは全然別のテーマの単行本の執筆なんつーのまであったのだった。考えてみれば、日ごろの不規則な生活で軟弱になっている僕の体が、そないな激務にたえられるわけはありまへんがな。いきなりアヤシイ関西弁になってしまったのは、今年の状況があの二年前と酷似しているからだ。「定点」のかわりに「寄席さんぽ」があり、単行本の執筆も、実はやっていたりする。ううう、今年はブレーキかけなきゃね、と思った矢先に、十二上の池袋、さん喬得意の「長講」十日間なのである。見たい聴きたい、でも無理したくない。あああ、どーしてこーゆーじきに楽しい事やるんださんきょうーーーーーっ。

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 12・03(月)

 <池袋・夜席>

 笑組

 扇遊:一目上がり

 小袁治:穴どろ(代喬太郎)

  仲入

 仙三郎・仙一

 主任=さん喬:たちきり

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 まったくもう、月曜日から寄席に行ってる場合じゃないんだよなあ、こんな精神状態じゃ長講なんて楽しめないよなあ、他の客だってそうだよなあ、さん喬昨日声が出なかったってインターネットに出てたなあ、今日は大丈夫かなあ、しかしこの時期に長講なんてやるほうもやるほうだよなあ、来る方も来る方だけど、というわけで午後六時四十分入場、客は三十八人。ううむ、思ったほど入ってないな。

 高座では、最近好調の笑組がテンションあげまくりの怪演である。

 「この間お客さんが『いつもテレビ見てますよ~』だって。(声をそろえて)テレビなんか出てねーよ!」

 「でもオレ今度テレビのクイズ番組にでるかもしんないんだよー」

 「黄緑色でトサカが立ってる人は、クイズ番組なんか出ちゃダメ」

 「上は大水、下は大火事、なーんだ?」

 「お風呂でしょ」

 「ううん、大惨事」

 ウルサイけど、面白いぞ、笑組。

 いつも手堅く笑をとる。こういうタイプが一番書きにくいのだよ、扇遊。しかし今日のマクラはちょっといいかも。

 「こないだ、仕事で『若妻の会』ってのが来ましてね。万難を排して行ったら、OB会だった…」

 キョンキョンが休みで、代演は小袁治。「この後、仲入……。一番危険な時間ですね」といわれて、思わずハッとしたりして。

 「ええ、このごろは、子供の話なんかで、『やっぱり男の子がいいねー』ていわれて、うっかり『へい、そうですね』なんて言えませんな。しかしね、いまどき提灯行列をやるところがあるという。明治三十八年以来なんですって、提灯行列。こういうの見てると、我々噺家も、まだ生き残る余地はあるなあと思いますねえ」

 なんともとぼけたマクラから、暮れの噺「穴どろ」へ。

 「どうです、この力こぶ。ホレホレ。早く見てくださいよ、くたぶれますから」

 横浜の平さんがいいねえ、小袁治も味があるねえ。

 仲入休暇時、正楽のおっかけで有名な、お玉ちゃんと立ち話をする。

 「あたしねえ、この芝居、昼の志ん輔さんは毎日来るけど、夜はだめ~。仕事あるの~。なんでこんな時期にやるんですかあ~、さん喬師匠~」

 誰の考えるのも同じである。しかし、この芝居、正楽出ないよなあ。

 さてさて、あっという間にトリの出番になってしまった。体調が心配されるさん喬、今日はどうだろうか?

 「昨日は急に声が出なくなって…。今日、十年ぶりに昼寝したら、声が出るようになりました。声に負担がかからないようなネタをと思ったんですが(ネタ出ししてるリスト中には)みんなそういうネタなんですよー。『短命』出しときゃよかった」

 「千葉県の外房線ですか、あれに乗ったんですけど、無軌道というか、バカというか、ウチのさん角がそのまま女子高生になったようなのがね、茂原あたりから七、八人乗ってきて、こんな短いスカートで車両の床にベターっと座って、ポッキーなんか出して食べてるんですよ。電車の床って汚いでしょ、それが素肌を直接つけるような座り方をして、まったくもう……、床になりてえなあ」

 今夜の長講は「たちきり」。声を気にして、前半手探りのような感じもあったが、さすがに最後の線香の前での「くどき」は声を張りあげていた。志ん朝亡き後、次代を担わなければならない噺家の一人、身体だけは大事にしてくださいよーと、思いつつ、東武の上のスパイスにある「古奈屋」(巣鴨・地蔵通りの有名店の出店だ)で妙に高いカレーうどん餅入りを食べた。

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  12・06(木)

 <負けらンない二人>(内幸町ホール)

 喬太郎:墨田警察一日所長

 ポカスカジャン:絵かき歌・レット・イット・ビーかくれんぼ・ワールドミュージック

  仲入

 歌武蔵:らくだ

 円太郎:居残り佐平次

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 円太郎・歌武蔵。本格派で重量級、最近めきめきと腕を上げている二人の会。こういうのを「がっぷり四つ」というんだろう。見逃すわけにはいきまへんでえ。

 会場の内幸町ホールは、新橋の駅近くにあるのに、妙にわかりにくい場所である。無機質なビルに囲まれ、ホール自体も個性のないビルの地下にあるのだ。ビル街の中のビル。わかりにくいのが、夜になると、さらにわかりにくくなる。夜の六時半ぐらいに、この辺をうろうろしている人がいたら、たいてい内幸町ホールの客に違いない。かくいう僕も、以前、花緑の会に行くのに、ホールの前を二度通り過ぎている。今度は一発で見つけ出してやるぞと、早めに会社を出て、都営線の内幸町駅から歩いたら、あっけなく会場に着いてしまった。ついたのはいいが、開演時間を三十分ほど間違えていたらしく、まだ会場が開いてない!これじゃ迷わずいけても何の意味のないじゃん。とほほのほ。

 珍しく開場前に並んで入ったので、前から二番目という好位置をキープ。一息ついて場内を見渡すと、演芸評論家芸能誌記者出版社社長CDプロデューサー編集者話芸研究家単なるマニア等々、なんだか濃い客層なのである。

 開演するや、前座なしでいきなりゲストの喬太郎。さらにもう一組のゲスト、ポカスカジャンがやって仲入になり、その後メインの二人が大ネタを二席演じる。前半軽くて、後半はべた重い。誰が考えたのだろう、なんともバランスの悪いプログラムではないか。

 こういうヘンな番組の時は、見るほうもペース配分を考えねばなるまい。ゲスト陣はいつものアレなので、リラックスして見物。エネルギーを温存して主役の二席を見る。

 まずは歌武蔵の「らくだ」。普段爆笑系の噺しか聴いてないし、おそらくやってないはずの歌武蔵、おもすれば重くなりがちの大ネタ、だいじょーぶかなーと密かに案じていたのだが、だいじょーぶどころか、予想をはるかに上回る出来なのだ。

 なによりも、主人公の屑屋がかわいいっ!らくだの兄貴分に脅されて身をすくめるしぐさ、因業大家の玄関先で演じる「死骸のかんかんのう」(これがユーモラスな身振りをたっぷり見せる“歌舞伎型”なのだ)のおかしさなどは、いつもながらの、自らの体格を生かした演出だ。特筆すべきは、屑屋が酒を飲んで豹変し、大店の主人から転落する様を問わず語りに話し出すくだりは誰の方なのだろう。話が暗く重くなるなあと思うぎりぎりのところで、ふっと素にかえりギャグを飛ばす呼吸の見事さに舌をまく。こういう笑いに頼らず、しかし人情ものに逃げない。こういう「らくだ」もありなのだ、と思わせる魅力にあふれていた。いいぞ、歌武蔵。

 対照的に、円太郎の「居残り」は、新しい演出も奇をてらったギャグもない、オーソドックスなものである。ダイエットやトライアスロンのトレーニングで、すっかり体が絞られて、体がすこし小ぶりになったような気はするが、芸の方はそのぶん確実に大きくなった。

 描写は丁寧すぎるほど丁寧で、そのためややテンポが遅い気もするが、ぱあぱあと調子の良い居残りが、ふと垣間見せる翳のようなものを、円太郎はしっかりと捕らえている。いつの間に腕を上げたのか。

 上り調子にのって、ありとあらゆる技を駆使してせめて来る歌武蔵を、がっちり受け止めて一歩も後に引かない円太郎。この先、長い勝負になりそうな予感がする。早く次の一番が見たいぞ。

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  12・07(金)

 <池袋・夜席>

 扇遊:寝床

 萬窓:試し酒

  仲入

 仙之助・仙一

 主任=さん喬:子別れ

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  新橋で重量級のバトルを楽しんだ翌日、また池袋に舞い戻ってきた。さん喬長講は、インターネットでも話題で、あちこちでネタの教えっ子をしているようだ。

 今日も仲入少し前という、微妙な時間に滑り込んだが、なんだか寄席にいるような気がしない。だってさ-、仲入の前二本が「寝床」と「試し酒」なんだもん。これはどちらも寄席ではトリネタ。これにトリの長講が入るんだから、ものすごくお得な気がするー。

 さん喬「子別れ」は、子供と父親の再会が、この人にしては、あっさりとしている。その分、別れた女房の描写が丁寧で、ラストの鰻屋の二階での、夫婦の再会、番頭が中に入っての和解と続くくだりは、世話物の芝居を見ているようだ。つましい暮らしをしているはずの母子に貧乏の翳りがあまり感じられないなど、きれい事に偏るきらいはあるが、それもこの人の味なのだろう。いかにもさん喬らしい「子別れ」と言えるだろう。

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 12・08(土)

 <池袋・夜席>

 扇遊:天狗裁き

 馬の助:位牌屋

  仲入

 仙之助・仙一

 主任=さん喬:柳田格之進

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 翌日もまた午後七時に池袋に参上。この忙しいのに、ほんとに何やってんだか。客は八十人ぐらいか、日増しに増えていくのが嬉しくもあり、うっとおしくもあり、なのだ。

 「天狗裁き」を、さん喬以外で聴くのは本当に久しぶり。さん喬に比べて、おかみさんが軽い。奉行も軽くて、「このもの、夢をみたくせに夢をみないと嘘をつき」という大家の訴えを見て、「なにこれ」とつぶやくのがオカシイ。

 馬の助は、珍しい「位牌屋」。そういえば、先代馬生が寄席でよくやってたよなあ。お店ものではおなじみの、ケチな旦那のセリフがいい。

 「うちはね、『おあしを使う』ってのは忌み言葉だからね!」

 さん喬の長講は、いよっ、十八番の「柳田」かあ。

 「うちの師匠がね、『いいか、噺ってえのは、長けりゃいいってもんじゃねえんだ』っていうんですよ。してみりゃ、長講ってのは無駄なもんで……。近年では、そうですね、無駄に長いのは小三治さんぐらいかな」

「明日は『雪の瀬川』、楽日に『品川心中』の通しをやろうかな。って、こういわないと、稽古しないからね」

 で、今夜の「柳田」は、長い長い。柳田格之進と万屋が碁会所で出会うまでにずいぶんと時間がかかった。この先何分かかるのかと呆れつつ聴くのも、さん喬落語の魅力の一つなのだ。と、そういうことをいうと、何でも魅力になってしまうな。

 しかし、明日の日曜は「雪の瀬川」かあ。さすがに四日連続は無理である。なまじネタを聴いてしまっただけに、ううう残念無念である。

 終演後、お玉ちゃんの案内で、ロサ会館の奥の、正楽なじみの店に行く。後から旅帰りの正楽も加わって、怪しい宴会が続くのであった。池袋の夜は長く、寒い。

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 12・10(月)

 <三遊亭白鳥真打披露興行>(大阪・茶臼山舞台)

 小田原丈:レンタルひでお

 姉様キングス

 雀三郎:崇徳院

  仲入

 口上:小田原丈・あやめ・染二・白鳥・三風・遊方

 白鳥:青春残酷物語

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 今日は本業の取材で、大阪へ出張。朝イチの武蔵野線から、千代田線、JR、新幹線、阪急電車を乗り継いで、大阪府茨木市へ着いた。ここでインタビューして、大阪に舞い戻り、ここで資料調べと、もう一本インタビュー。朝からシャカリキに動いたので、夕方五時には仕事が全部終わってしまった。

 最近定宿にしている日本橋のビジネスホテルで一息ついて、途中で買った関西版のぴあをパラパラ。しっかしなんだよなー、こんな時間じゃ吉本も浪花座も終わっちゃってるし、しょうがないからどっか近所で上方落語の若手の会でもあったらのぞいてみようかなー、とかなんとかつぶやきつつ頁をめくっていると、「三遊亭白鳥真打昇進披露」なんという漢字ばかりのタイトルが目に入った。

 東京・池袋あたりの寄席と新潟の瓢湖にしかいないはずの白鳥が、大阪にまで飛んできている!これは見物にいかねばなるまい。会場は、茶臼山舞台。どこだそりゃ。さっそく電話してみると「天王寺から歩いて数分」だと。そんなら日本橋からも数駅だ。多少迷ったとしても、まだ十分間に合うじゃないか。寒風吹く大阪の町を地下鉄を乗り継いで天王寺へ。あとは電話で言われたとおりに歩くとすぐに見つかった。が、何だこの建物は。茶臼山舞台というから、能舞台みたいなとこを想像してたのだが、そんないいものではないことは明らかである。古びた細長い三階建てのビルの一階が飲み屋で、横に場末のビアホールから拝借してきたような提灯が揺れる階段が二階へのびている。どうやら、この先が目指す舞台なのであろう。とんとんとんと階段を上がって、ドアをあけると、ありゃー、十数畳の畳敷きの、なーんもない空間。一番奥に小さな高座が作ってある。いやあ、風情のある披露興行になりそうだなあ。

 畳敷きのスペースでの席取りの常道は、壁際に陣取ることである。壁に寄りかかっていれば、長丁場でそれほどつかれないのである。開演間近だ、一応パンフに目を通そうかなと思って顔を伏せたとたん、すぐ後ろで「たすけさーん」という声が!

 こんなところでハンドルネームを呼ばれるとは思っても見なかった。ドキドキしながら振り返ると、熊八MLで顔見知りのMさんが、この寒いのに半そでニット姿でニコニコしているではないか。いやあ日本は狭いし茶臼山舞台も狭いぞ。

 開口一番は、東京から白鳥にくっついてきた小田原丈。以前、どういうわけか京都で修業していた事があるので、土地鑑もあり、仲間も多いのだろう。白鳥を知らない大阪のファンを前に、白鳥の人となりをしゃべりだした。

 「白鳥さんは、私の兄弟子で、円丈に入門を頼みに行った時、直接私に断わった人なんですよ。そのために私は、半年間フリーターをしたんです。で、また入門しに行ったんですけどね。そのとき一緒に喫茶店に入ったら、メニューに目いっぱい顔を近づけて見るんです。後で近眼だと知ったんですが、はじめは、これギャグなのかなとリアクションに悩みましたよ」

 「私のネタにはメリットがあります。短いです」といって、「レンタルひでお」に入る。そういう噺があるとは知っていたが、実際聴くのは初めてだ。母は男、父はジパングの黄金を堀にきたアゼルバイジャン人で、本名は「田中ひでおA」。むちゃくちゃな設定だが、噺もむちゃくちゃな展開をする。小田原丈には独特のセンスがある。だが、事態の収拾能力が必要だろう。

 「いやー、日本一カジュアルな披露目ですなー」と言いながら、日本髪音曲漫才の姉様キングスが出てきた。会場も高座も狭いので、すぐ目の前で芸をやっているのだが、いやー、間近で見ると、白塗り化粧、すさまじいですなあ。とりわけ、男の染雀より、本来女性のはずのあやめがすごい。

 「ねえさん、なんでバラライカもってはるの?」

 「うちの父が共○党なの。元、やけど」

 で、いきなり「恋人はサンタクロース」の演奏が始まり、

 「父親は共○党、背の高い共○党、あ~か~○~た~を読んでる~、ロシア民謡うたう~」

 「アホラシ、いまどきロシア民謡なんか歌うの、ねーさんとこのお父さんか、仁鶴師匠ぐらいなもんや」

 「そーゆーたら仁鶴師匠、楽屋で大きな声で歌うてるなー」

 いやいや、なんちゅーオープニングや。しかし、染雀は三味線もいけるし、のどもいいなあ。

 「アタシ、林家染雀やないのよ。ジャクリーヌお染。これはじめるとき、林家名乗ったらアカンて、染丸師匠にいわれたのー」

 なるほどー。

 「人間○宝は松竹梅よ~。芸はウメー、ギャラはタケー、あとは~お迎え~待つ~ばか~り~」とアブナイネタのオンパレード。

 「アタシは○子さまと同い年。でも、早生まれなのー。こないだ病院に行ったら、『卵子、古くなってる』やて。アタシは、小○朝さんの子供生んで、笑○亭に入門さす、上方落語チャンプルー計画たててんのやからー」

 最後は、染雀の「松づくし」!。ついこの間、玉川スミねえさんのを見たばかりだが、あちらは国立演芸場、こちらはせまーい茶臼山舞台。身動き取れないほどの高座で、染雀がんばってますーーーーーー。

 仲入前は雀三郎。

 「まあ、安直な披露目でんなあ。今日は全体的に新作のトーンなので、アタシんとこは古典やります」と「崇徳院」へ。「崇徳院」といえばちょっと艶っぽい若旦那ネタのはずだが、雀さんのはかなり骨太な印象だ。熊さんが野太い声で、若旦那や床屋の客を圧倒しまくる。ラスト、若旦那の相手が判明するくだりで、床屋の大将と頭の会話が一瞬、無声になって、にわかに気がついた熊さんが頭の首を締めにかかるという演出が、ドラマチックだ。

 仲入休憩の時、狭い階段を上がって三階のトイレにいったら、隣が楽屋らしく、大きな声で口上の段取りを打ち合わせている。

 で、その口上がものすごい。二人並んでいっぱいという、狭い高座に六人が並ぶはずだったが、さすがにそれはあきらめたらしく、六人が無理矢理ジグザグに陣取っている。

 あやめ「初めて白鳥の芸を見たとき、やられた!と思った。打ち上げで白鳥と喧嘩したことがある」

 三風「白鳥は貧乏で、春はヨモギ、夏はセイタカアワダチソウ、秋はススキを食べていた。爺さんが毎日パンをやっているお寺のハトを食ったらしい。ハト食う前に、なぜ爺さんに『パンくれ』といえん!」

 遊方「白鳥はケツの穴がかなり上にある。そんなハンディキャップを乗り越えて、真打になり……」

 大喜利「一から十」もつけて、にぎやかでえげつない口上が終わった。

 「みんな好き勝手なこと言って、こいつはどんなことやるんだろうと、ヘンに期待されても困ります。何もなりませんから」とぼやく白鳥のトリ(なんかヘンな言い方になるな)。田舎もんのマクラから、得意の貧乏ばなし「青春残酷物語」に入った。喪服のポケットにバナナを忍ばせた先輩、着物姿の山口県出身の吉田君、胸にヘタクソな猫の刺繍がある中国服を着た陳さんの三人組がカブキチョーの会員制クラブで巻き起こす、誤解と早合点ととりちがいの物語。客席の半分以上が、今日白鳥を初めて見るという。大阪の落語ファンの目に異才・白鳥がどう映ったか。ひとりひとりに聴きたい衝動に駆られたが、慣れない早朝からの仕事でクタクタの身をまもるべく、まっすぐ宿に帰った。いまごろ東京・池袋では、さん喬長講の楽日がハネて、師匠を囲んで宴会などやっているのだろうと思いつつ、重たい身体をベッドに投げ出した。大阪の夜風も冷たいんだよなあ。

 

つづく

 


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