たすけの定点観測「新宿末広亭」

その四 番組 : 平成十一年六月上席・昼の部 日時 : 六月九日(水) 主任 : 川柳川柳(林家こん平の代演) 入り : 約五十人 レポート  末広亭は、トリを見に行く。と、前回(六上・夜) のレポートに書いた。今日のトリは、林家こん平。 落語はともかく、漫談風の高座、特に生まれ故郷の 「ちゃーざー村」(千谷沢村、というのかな)を舞 台にしたローカル話の面白さは、寄席の彩りとして 貴重な存在である。あの怒鳴りつけてるような口調 も、「ちゃーざー村」には妙にしっくりくる。もっ とも、長い時間になると、こん平独特の粗さのよう なものが気になってくる。トリではなく、演芸半ば で生きる芸人なのではないだろうか。  てなことを、ちょっとまじめに考えながらお金を 払っていて、ふとテケツの横を見たら、小さな張り 紙が・・。  「こん平 代演 川柳」  ぬあんだ、代バネかぁ。寄席に代演はつきものだ が、トリの休演=代バネはおだやかじゃないぞ。と いうのは、たすけはこの代バネで、気分の悪い思い 出があるのだ。  場所は数年前の池袋の昼席。右朝のトリを目当て に入ったら、代バネで、出来てたのが、なんとこぶ 平ちゃん。そりゃーねーだろーと思いつつ聴いてい たら、三十分間小噺でつないでやんの。ま、代演の 表示を確かめずに入ったたすけも粗忽なのだが、古 典の本格派の代演に、肌合いが違う根岸の息子を出 すだけでも???なのに、出てきたこぶちゃんがネ タをやらず、あきらかに逃げの高座だったんだから ね。あれは、「金返せ」といっても通る状況なので はないか。こぶちゃんには何の恨みもないけどね。  そんなことを思い出してたりして、しばし木戸口 で立ち往生。でも、今日の代バネは、こん平のかわ りに半漁人・川柳だからね、まず妥当な入れ替えだ なと納得しつつ入場した。いやー、今日は中に入る までが長かったな。  さて、高座はとみると、歌坊の「権助魚」だ。こ の人はじめてだなー。律儀に演じているが、権助が ややおとなしい。この手の話なら、もっとはじけて もいいな。続いて、ベテラン円菊の登場。「今日の 客席は、ちょっとアメリカーン」とよく聴くネタ( アメリカンな状況が多いんだよなー)で笑いをとっ てから、「厩火事」に入る。トチリや言葉をかむ癖 が目立たず、安定した口演だった。  マジックの花島世津子が「松旭斎すみえの弟子の 中で私が一番美しい。この程度で一番だから、後は おみせできません」と笑わせた後の、うん平が思い 出せない。漫談だったと思うのだが、記憶がないの だ。ずびばぜん。  仲入前は、正朝の「町内の若い衆」。横すわりに なって肩で息しながら亭主を脅かすカミサンの描写 が笑える。本来の細い声を、無理やり思い切りがら がら声にして「だ〜れ〜」。これって、権太楼版と 同じやり方だったような。  仲入後は、いっ平と交互出演のたい平。仲入前に 客席後方に小グループが座っていたが、さっそく、 それをネタにして、「今日は、多摩市国語研究会の みなさんがおみせになっています。林家には、こわ い客です」。このへんがたい平の真骨頂である。で も、今日は漫談のみ。ネタやれよー。  久々の小猫は、「動物あいうえお」。子供相手の 高座では、「あ」のつく動物はー、と呼びかけなが ら、いろいろな物まねをやるんですよ、と解説する のはいいが、考えてみたら、大人相手にそのまんま 子供ネタをやってるのね。親父の猫八とは違う軽妙 な高座。  続いて落語二題。とはいうものの、つば女は相撲 ネタの漫談で、南喬は出来心の前半のみ。昼の部と はいうものの、ここまで、落語を聴いたなーという 高座が、「町内の若い衆」と、少しはしょった「厩 火事」とは。仕事サボってきたかいがないじゃない の。  勝之助勝丸(この人、ほんとにお父さんの林家ラ イスに似ている)の太神楽の後、いよいよ代バネの 川柳登場だ。「歌は世につれ」。いつものように「 勝ったときの歌」からはいったが、「ガーコン」に はならず、パフィーをやったり、寄り道しながら十 五分の高座だった。と、ここで気がついたのだが、 この段落、寄席ビギナーには、何のことやらわから ん部分が多いのかもしれない。「林家ライス」に「 勝ったときの歌」に「ガーコン」に「パフィー」・ ・。ま、いずれ本にでもなったら、チョー詳細な注 釈をつけるから、それまで我慢してついてきてくだ さいね。  四時半ぴたりに終わって、外に出ると、目の前に こじゃれたうどん屋が出来ている。寄席の帰りの「 のせもの」については、いつも悩んでいるたすけに とっては、オプションがまた増えた。とりあえず入 ってみようかとは思ったが、仕事の途中であること を思い出したたすけは、あわてて丸の内線で大手町 のオフィスに戻っていったのだった。 たすけ


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