○便 所

 日常生活には欠かせぬ場所でありながら、あまり語られないの
が便所。古くは川で用を足すことが多かったので厠(かわや)と
言われるようになったが、江戸時代は、雪隠(せっちん)あるい
は手洗場(ちょうずば)と言う言葉が使われていあた。    
 武家屋敷や社寺では、主要な建物ごとに小便所と大便所とが組
みになって付設され、町家では建物の大小に応じて小便所一ヶ所
と大便所一〜二ヶ所、客座敷を設けるときはその裏手に小便所と
大便所が設けられていた。                 
 裏長屋の場合は共同便所で、小便所一個に大便所が数個並び、
総後架(そうこうか)と呼ばれた。後架とは禅寺で、僧堂の後ろ
にかけ渡して設けた洗面所の側に便所があり、それが転じて便所
の意味になる。                      
 江戸で大便所と小便所が分かれていたのは、大便は畑の肥料と
して近郊の百姓が喜んで汲み取って行ったからで、排便転じてお
金や野菜に化けるのであったが、小便は使用価値がなく、ほとん
どの便所はそのまま川に垂れ流していた。