○本所の七不思議

 七つの数はなにかと日本中で用いられる数である。七変化、七草
七種、七夕等々、どうして七なのかそれが世界の七不思議でもある
が、江戸では本所の七不思議といわれるのがもっとも有名である。

  一 「置いてけ堀」                   
    この堀で魚を釣ると、どこからか置いてけという声がかか
    る。                        
  二 「馬鹿ばやし」                   
    真夜中どこからともなく聞こえてくる狸ばやし。    
  三 「送り提灯」                    
    夜道前方に見える提灯の明かりが近づくと消える。   
  四 「落葉無き椎の木」                 
    松浦屋敷の椎の木は秋に成っても落葉しない、これはキリ
    シタンの祟りと怖がられた。             
  五 「津軽屋敷の太鼓」                 
    津軽屋敷の火の見櫓の板木は太鼓の音がする。     
  六 「片葉の芦」                    
    両国橋付近に生息する芦は、片方にしか葉が出ない。  
  七 「消えずの行灯」                  
    本所南割下水付近を流して歩く屋台の蕎麦屋はいつも明か
    りが消えず、近づくと屋台ごと遠のく。        

 これらが七不思議なのだが、何が不思議なのか文字面からは判断
しにくいが、当時はそうとう怖がられた記録があちこちに存在する。
 本所付近は湿地帯を埋め立てて出来た造成地、初めは庶民の生活
する場所であったのだが、各地の大名がその環境に目を付け、下屋
敷として庶民より摂取、その恨みがこの様な噂話として世に伝えた
のであろう、結果、前出の松浦屋敷の大名は不気味な噂で下屋敷に
は立ち寄らなかったとの記述を黄表紙で見たことがある。また、岡
場所、深川七場所で有名だった地でもあり、この場所に足を向けさ
せないために、親が子に伝えた逸話だったのかもしれない。